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2014年4月18日放送
「想う×手紙」
拝啓…桜の季節ももうすぐ終わりですね。
日本の手紙に添えられる時候のあいさつ。日本の手紙の文化は季節を愛でる心に溢れています。文字に想いを込めるための道具にはそれを作る職人たちの想いもこもっています。手紙を楽しむ心は現代の人々の心にもまだまだ生き続けています。楽しみながら想いを伝えるそんな日本の手紙の世界を見に行きましょう。
毛筆で書かれた日本の手紙。文字の表情に書いた人の想いが滲みます。古来、文字を書くための道具は宝とされ「文房四宝」と呼ばれています。筆、墨、硯、紙。美しいものは鑑賞の対象ともなり珍重されました。
鳩居堂・京都本店。350年続く文房四宝の老舗です。もとは薬問屋で中国の漢方薬と一緒に文房四宝を輸入したのが始まり。毛筆の手紙に必要なものはなんでも揃うお店です。草花の便箋や手紙に香りを添える文香など季節感溢れるものも。文房四宝の中で特に日本独自の発展を遂げたのが「紙」。さまざまな産地で和紙が作られ雁皮紙など仮名書きに向いたものも生まれました。石の種類で価値が変わってくる「硯」。ほとんどが菜種やゴマ油を燃やした煤で作る「油煙墨」という墨です。ひとつひとつ墨の色合いも異なります。年月を経るとさらに墨色は美しくなり「古墨」として珍重されます。そして「筆」。特に筆は鳩居堂の自慢の品です。明治のはじめ技術者を中国に派遣して筆の技術を高め、その後も弘法大師など名筆の筆を復元するなど技術を磨いています。
筆先の長さや太さ、毛の色も様々。全て天然の動物の毛を使っています。固さの異なる毛を単独で使ったり混ぜたりして様々な書き味の筆を作ります。写経用など漢字を書く筆にはイタチの毛を使うことが多いようです。同じ動物の毛でも個体によって毛の固さが違うためそれも考慮しながら毛の量を考えます。鳩居堂で54年筆を作り続けている小島さん。今やっているのは最後の仕上げ。穂先をふ糊で固める作業。毛の配分を間違えると全く違った筆になってしまうそうです。繊細な書き味の違いを生み出すためにこの細い穂先に全ての神経を集中します。実際に書いてみて気持ちのいいと思える筆を選ぶのが一番のようですね。一言で「筆」とはいっても個性の違った様々な筆が作られています。自分に合った筆を選べばそれは自らの手となってその人らしい文字を生んでくれるはず。ぜひお気に入りの一本を見つけて手紙を書いてみて下さい。
一人静かに墨を摺る時間が手紙を書く心の準備をしてくれます。美しい古墨は文人墨客たちに観賞用としても珍重されてきました。そんな日本の文字文化を支えて来た墨を400年以上前から作り続けている工房があります。創業1577年の古梅園。かつて宮内省御用の任を受けていた古梅園は古くから天皇家や将軍家などに墨を献上してきました。墨の種類も数えきれないほど。ほとんどが植物油を燃やした煤で作る油煙墨。菜種やごま油のほか椿油墨もあります。そして古梅園の顔ともいえる墨がこの紅花墨(こうかぼく)。自家栽培の菜種油を使い270年前からずっと同じ製法で作られています。工房も同じ敷地内にあります。最初の工程。油を燃やす蔵で菜種油に入った灯芯の炎から上がる煤を集めて墨にします。時々油を注ぎたし1日中燃やし続けています。灯芯の太さで炎の大きさも変わりそれによって出てくる煤の粒子の大きさも異なります。炎を一定に保ち同じ大きさの粒子を集めるのは大変な作業。集めた煤はにかわで溶かし墨の原型を作ります。膠で溶かした煤は粘土状の墨玉になっていました。時々油をつけ足の裏で固さを感じながらこねて行きます。ここでなるべく固くこねた方が最終的に良い墨になるんだそうです。くり返し揉まれることで空気が抜け艶と潤いを増していきます。最後は手で固さを確認しながら仕上げ墨1つ分の大きさにちぎっていきます。しかしよく見ると足元のビニール袋からちぎっています…。実は墨玉は冷たくなると使い物になりません。それでお尻の下に敷いて体温で温めながら作業するのです。細長い墨の形に近づいてきました。型に入れたらこうしてしばらく圧縮します。実は見学に来ると握り墨といって墨を握らせてもらえるんです。握って感じたのは職人が墨玉に込めた想い。型抜きされた墨はこのあと水分を抜く作業が行われます。灰をかぶせ置くことおよそ一ヶ月・・・。最後は1つ1つ。藁にはさんでぶら下げて乾かします。短いものでも3ヶ月以上、数年間乾かすものもあるそうです。職人が手に込めた想いが墨の色や滲みとなって手紙に表情を添えてくれます。
紙問屋に和紙を注文する手紙。文中には「はいばら」という店名も見えます。この「はいばら」とは日本橋で今も営業する和紙の老舗。創業から200年あまり。榛原の和紙は多くの文人墨客に愛されてきました。白い巻紙が主流だった江戸時代にも花柄の紙を作るなど手紙の文化に常に新しい風を吹き込んできました。明治6年に榛原が作った2つ折りの官製はがき。この2年前に郵便制度が始まり当時の逓信省から発注を受け製造しました。手紙もコンパクトな封書となり中の紙も巻紙から変化しました。「詩箋」。榛原は他に先駆けて封書用の紙を開発しました。まだまだ筆を使う人の多かった時代。紙は和紙にこだわりました。木版刷りの味のある罫線は毛筆とのバランスも絶妙。上質な和紙は筆の滑りも良く「榛原の便箋」は字が上手に書けると評判になりました。そんな榛原が日本の手紙の伝統を現代に生かして新しい便箋を作りました。折り目ごとにミシン目が入り好きな長さで切って使え、巻紙のような長い手紙にもなれば一筆箋としてカードのように添えることもできる古くて新しい便箋です。『紙の質感やデザインからも書く人の想いは伝わる。』そう考える榛原の便箋は今も多くの人の想いを伝えています。
ウェブデザイナーの影山さん。影山さんも榛原製の便箋を愛用している一人。毎年年賀状には特別な工夫を。箱にお香をいれて香りを移してから投函しました。まるで香を薫きしめて和歌を送った平安貴族みたいですね。こうした工夫が新しい発見に繋がるそうです。手紙が相手に届くまでの間いろいろ想いを廻らせるのも楽しみのひとつだとか。手紙は人と人との心の扉であり自分の中の新しい世界への扉でもあるようです。
春が来るとカラフルな手紙を送りたくなりませんか? 季節の気分を封筒で表す。そんな楽しい手紙「絵封筒」ってご存知ですか? 絵封筒作家の内尾さん。工房を主宰し絵封筒の楽しさを広めています。内尾さんの絵封筒は切手の絵柄を生かしてまわりに絵を足していきます。もちろんこれで手紙は届きます。封筒の表側なら切手をどこに貼ってもいいのです。規定の郵便料金になるべく近くなるように切手の組み合わせを考えます。他の郵便物を汚す恐れのある画材やでこぼこしたものを貼るのはNG。ずっと手元にとっておきたくなる絵封筒の手紙。あなたも大切な人に届けませんか?
手書きの文字を届ける。想いは時間と空間を超えて相手の元に届きます。
鳩居堂
〒604-8091 |
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古梅園
〒630-8343 |
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榛原
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内尾夕子(絵封筒作家) |