SHISEIDO presents エコの作法
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2014年4月11日・5月2日放送
「甦る×京都の古民家」 

季節の移ろいを感じながら過ごす日本の家。その穏やかな暮らしはいつも自然とともにありました。京都。ここには昔ながらの家が数多く残されています。今その魅力に改めて注目が集まる古民家。今回は京都の古民家に暮らす4人の外国人を訪ねます。

東山銀閣寺の近くの閑静な住宅街。日本の陶芸に惹かれ30年。やきもの研究家ロバー卜 ・イエリンさんです。住まいは大正時代に建てられた数寄屋造を借りています。主人の好み、自由な発想がちりばめられた数寄屋造。シンプルで洗練されたデザイン。そこかしこに遊びゴコロが秘められています。住むほどに日本家屋の持つ魅力を発見する日々。イエリンさんが特に感じるのは職人の技とその感性の繊細さでした。日本家屋では特に家とあかりの関係が強くあるとイエリンさんは感じています。そして最も愛しているのが日本家屋独特の空間、床の間。床の間は家の中のアート空間。この国の繊細な美意識と感性。遊びゴコロくすぐられる家は住む人の心を豊かにする魅力にあふれています。

誰も振り返ることのなかった小さな古いあばら家。でもその家を人生の舞台として見立て美しい暮らしを送る人がいました。出逢ったのは、東洋文化を研究し日本の伝統にも造詣が深く、著述家としても活躍するアレックス・カーさん。築およそ400年の社務所だった古民家に37年間暮らしています。家に居ながら自然と繋がる空間。空気の冷たさ、光りの移ろい、日々変わっていく季節をこの家から見つめてきました。古民家再生の第一人者として活躍。徳島県祖谷の茅葺屋根の家を始め日本全国で姿を消しつつある古民家を再生しています。梁や壁の一部は当時のまま。古い屏風を張り替えている襖。書や掛け軸が大切にしまわれ、全国各地で集めたという器や花器がズラリ。捨てられていた古い瓦もアレックスさんの手にかかればモノに宿る命が「見たて」で息を吹き返す。アレックスさんにとって、古いものを見立て暮らしを彩る素材に変えていく古民家は、楽しい遊び場でもあるのです。そうしてこの国の伝統や文化が日常空間に息づいていく。襖や障子を取り払い廊下や縁側も取り入れて一つの空間となった大広間。アレックスさん何か思いたったよう・・・。時期は3月半ば。確かに感じる春の訪れ。季節の「今」を楽しもうと境内にある梅を家に飾るようです。季節の花を楽しむために部屋のしつらえも変えていきます。日差しの柔らかさ、空気の匂い・・・暖かさを感じ始める頃ならではの春の様子を表しました。繊細な春の喜びが室内に華やかさを添えます。日が落ちれば庭をライトアップ。まるで家と庭が繋がった一つの空間のよう。古いモノや空間を自由に見立て美しく暮らす。それは日本人がいつしか忘れてしまったこと。美しい暮らし。それはかつてこの国で当たり前だったことを愛することから、始まるのです。

日本を代表する伝統文化、茶道。茶の湯の精神を愛し京町家で茶道と一体となって暮らす外国人がいます。大徳寺や船岡山がある、紫野。築90年の京町家をライフスタイルにあわせて再生し暮らしています。茶道家のジャック・コンベリー宗好さん。母国カナダで茶の湯に出会い24年前に来日しました。裏千家で修業を積んだジャックさん。この家で茶道教室「聖徳庵」を主宰しています。障子で仕切られた玄関を入ればジャックさんが愛してやまない囲炉裏の間がお出迎え。実はこの囲炉裏20年ほど前に友人と手作りしたもの。以前住んでいた町家でも使っていたものを今でも大切にしています。窓に目をやればお茶を立てる時に使った古い柄杓が。茶の湯が結んだ人の縁を象徴したかったと言います。囲炉裏を囲んで座れば隣の石垣が借景になる作り。壁を取り払ってつけたこの窓は日本建築の伝統を受け継いだもの。床に座って庭を眺め狭い室内でも心地よく暮らす知恵。さらに窓を開けると軒下には腰掛け待ち合いが。囲炉裏の間は窓を開ければ裏の露地庭に通じ待ち合いとしても使う場所。その奥に茶室をしつらえました。ジャックさんの京町家は住まいであり茶室となったのです。四畳半の小宇宙、茶室。客人と亭主の濃密な関係を築くために狭さを追求した空間です。一切の無駄を省き究極の美が求められる茶室。連なる障子から漏れる光は陰影を生み出し茶を点てる人の指先を照らします。床框に使ったのは床下に使われていた材木。この家の90年の記憶が刻まれています。茶道を愛するジャックさんの暮らしにあわせ生まれ変わった京町家。やってきたのは茶道教室の生徒さん。20年間毎週通う仲間達めいめいが稽古の準備を始めます。皆さんに愛されるジャックさんの京町家です。今やすっかり京都人のジャックさん。日本に住むキッカケとなった言葉がありました。「和を以って尊しと為す」聖徳太子の言葉です。「和」を大切にする心の美しさ。まさにこの家はジャックさんが京都でみつけた「和」をもたらす家なのです。

京都きっての梅の名所、北野天満宮。そのほど近く。思い切ったデザインで古民家を改装して暮らす人がいます。梅香る日本家屋。主は古美術商を営むロバート・マンゴールドさん。日本で大工仕事の経験もあり自ら建築デザインをし3年かけて再生しました。築150年以上。マンゴールドさんにとってはまるで宝箱。古い建具や建材を随所にちりばめ再生しました。別の部屋にあった障子の窓は玄関のインテリアに。けやきの床板は譲り受けたもの。天井はなんと元々この家にあった敷物をプレスして再利用。壁を取払うことで生まれた広々とした空間。窓を大きく取り庭を愛でられるリビング。マンゴールドさんは空間を斜めに横切るようにデザインしました。そして奥へ続くのは蔵。階段箪笥を上ると2階にある書斎兼事務所。この家に住む決め手の一つとなったものがあるそうで・・・。蔵の窓から見えるのはお隣、北野天満宮の一面の梅。香りまで漂ってくる絶景です。まるで寄せる波のように咲き乱れる梅の花。マンゴールドさんのアイディアで甦った古民家。中でも一番のお気に入りがこちらの客間。座った時目の前に庭が広がるようにと押入れはあえて高く。襖の柄も夏は滝で涼み冬は室内を明るくする白にしています。夜には障子越しに飾り格子のお月見も。室内に自然をうまく取り込みます。自然素材が生み出した美しいデザインと温もり。自然とともにくらす家。そしてマンゴールドさんが甦らせたかったのは古民家だけではないようです。古民家に住むと自然を五感で感じながら過ごしてきた暮らしも甦る。驚きのアイディアで生まれ変わったマンゴールドさんの古民家です。

家という人生の舞台に京都の古民家を選んだ4人の外国人。少しの不便さは厭わない。自然の声に耳を傾ける。何事にも代え難い豊かで美しい暮らしがそこにはあるのです。

ロバート・イエリンさん

URL:http://www.japanesepottery.com/japanese-info.php

アレックス・カーさん

URL:http://www.alex-kerr.com/jp/

ジャック・コンベリー宗好さん(聖徳庵)

URL:http://www.shotoku-an.org/HOME_PAGE/Welcome.html

ロバート・マンゴールドさん

URL:http://www.the-kura.com/