SHISEIDO presents エコの作法
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2014年3月7日放送
「祈る×火」 

遠い昔、人だけがそれを手に入れました。
火への恐ろしさを感じながらもわずかに温もりを求める心が芽生えた瞬間…。
人は地球上で唯一火を利用する生き物となりました。闇を照らし、温かい食事をもたらし、文明を育て…。豊かさを手に入れた人間はその恩恵に感謝し火に祈りました。
世界遺産・熊野の地に1400年続く春の火祭り。一年の始まりに神様から新しい火を頂く。その祭りは人々の心に否応無く火を畏れる気持ちを呼び起こします。
比叡山延暦寺。ここには1200年の間一度も絶やすことなく大切に守られて来た火があります。暮らしの中から火が消えつつある今、改めて火を見つめ直します。

琵琶湖を見下ろし都の鬼門を守る霊峰として崇められた比叡山。古くは山岳信仰の地であったこの場所に約1200年前最澄が開いた天台密教の寺院。比叡山・延暦寺。国宝・根本中堂。ここで1200年前に最澄の灯した火が今も消えることなく燃え続けています。火は3つの燈籠に守られ静かに燃えていました。この火は「不滅の法灯」と呼ばれています。最澄は自らが刻んだ薬師如来を本尊として法灯を灯しました。その本尊は現在、秘仏とされこの仏像の背後に収められています。以来、その火は、僧侶たちによって守られています。信長による焼き討ちで延暦寺が焼失した時も、ゆかりの寺に分灯してあった火を貰い受け繋いできました。火が消えないよう一日に数回油は継ぎ足されます。燃料は昔も今も国産の菜種油。灯芯は山吹の茎を乾燥させたもの。灯心の太さや気温によって油の減り具合は異なり、継ぎ足すタイミングはまちまち。しかし僧侶たちは火守の当番は決めず気付いた者が油を足します。僧侶たちが決して油断しなかったことで1200年の間この法灯は守られてきたのです。

根本中堂で護摩焚きが始まりました。護摩木と供物を火にくべ、煙を天に届けて祈願する密教や修験道に特有の法要です。仏教において火は真実の知慧(ちえ)の象徴。その知慧の炎で人々の煩悩を焼き付くし所願成就を祈るのです。火がもたらした文明は物質的な豊かさをもたらし際限のない欲をも生み出しました。しかしそんな人間の心に棲む欲を焼尽すのもまた「火」なのです。

火を使わなくなった現代の暮らし。
とても便利になりましたが何か大切なものを置き去りにしている気がしませんか?
島根県・出雲市に古民家塾という一軒の家があります。築200年の古民家を改装した昔暮らしを体験できる場所。今日も火のある暮らしを体験しようと仲間が集まりました。主催するのは建築家の江角さん。この家の持ち主です。今日は、かまどや囲炉裏を使って料理を作ります。火を消さないように空気を送るのは思いのほか難しい作業。暖房と調理を一度にこなせるのも火の利点。空いたかまどにはすかさずセイロ蒸しを。火を無駄にはしません。

薪割りは火を使うためには欠かせない仕事。ただ、上手に割るのは難しそう…。やっとのことで割ってもすぐに使えるわけではありません。半年近く乾燥させて初めて薪として使えます。そろそろお風呂を沸かす時間です。マッチを摺るのも初めて。どうやったら火が大きくなり、どうやったら弱まるか…昔の子供たちはお手伝いを通して火の扱い方を学びました。いよいよ夕食。薪と炭の力が生んだ豊かな晩餐です。自然に笑顔がこぼれます。スイッチ1つでは扱えない。ちょっと面倒だからこそ火のあるところには自然に人と人の関わりが生まれます。不便だけれどやっぱり火は心まで温めてくれるのです。

世界遺産・熊野古道。ここには日本最古といわれる火祭りがあります。年の初めに神様から新しい火を戴く祭り。お燈祭りです。和歌山県新宮市。熊野の神が最初に降り立ったとされる神倉山。その山頂にある神倉神社でお燈祭りは行われます。鳥居をくぐると境内までは538段の急な石段。ここを2000本の松明が滝のように降りてきます。境内にはご神体の「ゴトビキ岩」が鎮座していました。原始の自然信仰を伝える神倉神社。そこでおこした聖なる火を松明に移して里に持ち帰る。それが御燈祭りです。祭りが行われるのは立春に近い2月6日。旧暦が使われていた頃は立春が一年の始まりでした。浜で禊を行っていたのは祭りに参加する「上り子」と呼ばれる男たちです。祭りには男性なら誰でも参加できます。ただ、神聖な火をいただく上り子になるにはいくつかの決まりがあります。親子で参加する中瀬古さん。上がり子の衣装は白装束と決まっています。上がり子は祭りの日に食べる物も白い物だけと決められています。調味料も塩だけ。昔は一週間前から白い物しか食べなかったそうです。この日は学校給食も白い物ばかり…。町中がお燈祭り一色になります。準備も大詰め。白装束を着た上がり子たちは最後に荒縄を巻きます。縄の結び目は一度絞まると解けにくい「男結び」と決まっています。巻く回数は3回、5回、7回など奇数に…。荒縄を巻いた瞬間から上がり子たちは「神の子」となるのです。女性達は上り子や祭りの道具に触れることさえ許されません。松明に書き込むのは今年一年の願い。市内の3つの寺と神社を参拝してから山に登ります。

午後6時。祭りを進行する介釈人が神倉神社に向けて出発しました。いよいよ御燈祭りが始まります。御燈祭りの日、新宮の町は松明を掲げた2000人の上り子で埋め尽くされます。しかし伝統的な松明は風前の灯火。神倉神社のお膝元に職人は1人だけになってしまいました。50年以上松明を作り続けている上道さん。神倉神社の焼き印があるのは昔ながらの作り方を守っている証拠です。毎年700本近くを一人で作っています。材料は地元熊野の檜にこだわります。すべての工程が手作業。木を乾燥させるところから初めて1年がかりの仕事。神様の火を戴く松明にいい加減な仕事はできない。上道さんはそういって毎年、松明を作り続けています。

日暮れを前に上り子たちも山を登り始めました。ゴトビキ岩の陰でひっそりとご神火が灯され、上り子たちはひたすらその火を待ちます。大きな松明に移された御神火が上り子の間をかき分けてゆきます。いよいよ上り子たちが持つ松明に火が移されます。我先にと群がり松明がぶつかりあいます。瞬く間に炎は広がり熱さが上り子たちを包みます。境内から溢れ出した上り子たちで鳥居の周りも火の海。しかし祭りのクライマックスはまだこれからです。2000人の上り子たちは介釈人によって一旦全員境内の中に押し込まれます。外に出ようと必死でもがく上り子たち。この恐ろしい火は上がり子たちの心身を浄める浄化の火でもあります。かつては家庭にも届けられ新たな1年の暮らしを支える火ともなりました。そこには汚れた火を清浄な新しい火に更新するという大切な意味があります。

いよいよ境内の封鎖が解かれます。先を争って駆け下りる上り子。電気がなかった時代、家に残された女性達は真っ暗闇の中で新しい火が届くのを待ったそうです。新しい火に祝福され新しい一年が始まります。今では安全上の理由から家に着く前に松明の火は消すそうですが、新しい火をありがたく戴くという新宮の人々の気持ちは変わっていません。畏れ敬うべき火を私達はいつのまにか支配している気になっていないでしょうか。御燈祭りはそんな人間の原点に立ち返る火祭り。

火は命・・・。見ているだけで力が湧いてきます。安全や便利と引き換えに火が姿を消した暮らしには生きることの手触りが乏しくなっている気がします。「安心」を手に入れた心の隙間には「油断」という魔物も潜んでいます。静かに燃える火は生きるとは何かを考えさせるのです。

延暦寺

〒520-0116
滋賀県大津市坂本本町4220
TEL:077-578-0001
URL:http://www.hieizan.or.jp/

出雲古志 古民家塾

〒693-0031
島根県出雲市古志町下新宮2571
TEL:0853-31-8211
URL:http://kominnka.exblog.jp/i8/

神倉神社

〒647-0044
和歌山県新宮市神倉1-13-8
TEL:0735-22-2533

Brown's Field

〒299-4504
千葉県いすみ市岬町桑田1501-1
TEL:0470-87-4501
URL:http://www.brownsfield-jp.com/

hahaso/株式会社Hibana

〒604-0931
京都市中京区寺町通二条下ル榎木町98-7
TEL:075-241-6038
URL:http://www.hibana.co.jp/kyoto-pellet/

マッチデザインファクトリー

URL:http://www.webshop-mdf.jp/

和ろうそく/アトリエ 灯

〒162-0825
新宿区神楽坂6-73 メゾン・ド・ガーデニア 1F
TEL:03-6280-8573
URL:http://akarikagurazaka.web.fc2.com/

焚き火ろうそく/Factory HAN BUN KO

〒933-0914
富山県高岡市小馬出町63
TEL:0766-91-8380
URL:http://hanbunko.org/

エバレット・ブラウンさん