SHISEIDO presents エコの作法
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2014年2月28日・3月21日放送
「用いる×柳宗悦と民藝」 

暮らしを、人生を、豊かにしてくれるもの。ひたむきに作られてきたものに一筋の光を当てた男がいました。柳宗悦です。提唱したのは飾って眺める芸術品ではなく使ってこそ美しい 用の美。
「真の美とは日々の生活の中で使うものの中にこそある」。
柳宗悦の審美眼によって見出された普遍的な美しさ。

柳宗悦が「民衆の工芸」を称賛するために「民藝」という言葉を作りました。日常品だった民芸品に美の価値を見出したのです。日本民藝館では柳の審美眼より集められた約1万7千点が所蔵されています。美を求め行きついたのは、日本各地の郷土で古くから使われてきた優れた工芸品の数々でした。暮らしに欠かせない生活道具こそが美を作りだしているのだと考えたのです。その価値を広めようと、今から100年近く前に「民藝運動」を立ち上げました。職人たちが受け継いできた伝統的な手仕事が息づく実用品。その土地ならではの特色を持ち安価であること。手仕事の文化を守り育てることが生活をより豊かにするのだと信じていました。

出逢ったのは大分県の「小鹿田焼」。この地に昔から響き渡る臼の音。14軒のうち10軒が窯元を営んでいます。始まりは江戸時代中期。今の福岡県にあたる筑前・小石原焼から陶工を招いて作らせたといいます。訪ねたのは5代目の坂本義孝さん。小鹿田焼の最大の特徴は、飛び鉋と呼ばれる器の表面を引っ掻く技法と、器に塗った化粧薬に刷毛で筋を入れていく刷毛目という技法。足で蹴ってまわす「蹴ろくろ」。職人も雇わず弟子もとらないといった昔からのしきたりに柳は感銘しました。かたどったら室内で乾かし、日が出ると天日干に。ある程度硬くなってから模様をつけます。特徴的な模様をつける絶妙な力加減。江戸時代から受け継がれてきた技法。
柳はこんな言葉を残しています。
「日田の皿山ほどムキズで昔の面影を止めているところはないでしょう。こういう損なわれない状態で今日まで続くとは不思議なことだと言わねばなりません。」
一子相伝の世襲制で10軒の窯元が共に名乗る「小鹿田焼」は作品に個人の名を入れません。そして老若男女それぞれ分担して作ることも民藝の特徴の一つ。土づくりを担うのは女性たち。そして・・・静かな里で聞こえる唐臼の音。全ての工程が昔と変わらない手仕事の陶器づくり。そのような集落は世界的にも珍しいといいます。作家性を持たない小鹿田焼は集落の中心地にある共同の登り窯で焼きあげていきます。小鹿田焼はもともと米や大豆、水を貯蔵する大きな壺でした。一見不安定なようですが女性の力でも傾けやすいなど「用」にかなった形でした。この集落だけに伝わる焼き物に美を見出した柳宗悦。それから半世紀あまりたって小鹿田焼は重要無形文化財に指定されました。暮らしの中から生まれた手仕事による器から伝わるのは、この土地の風土の息吹と300年以上技法を守り継いできた窯元の家族の絆です。

「用の美」を追求した柳宗悦の「民藝」。日本民藝館5代目館長は世界的なプロダクトデザイナー深澤直人さん。これまでになかったデザインを数々発表。しかしその信念はあくまでも主張しないということでした。プロダクトデザインと手仕事の民藝。2つを繋ぐもの。どちらも暮らしに溶け込むデザインの力があること・・・。

千葉県のとあるお宅、ご主人に案内頂くと・・・民藝が部屋にたくさんあります。民藝の高いデザイン性は1つのファッションとして暮らしを彩ります。使い方は様々。これも普遍的な美しさをもつ民藝の「用の美」そのものかもしれません。そんな杉浦さんはビームスで手仕事の品やデザイン性の高い家具や食器などを取り扱う仕事をしています。世代を超えて人々を魅了する民藝。民藝との新しい付き合い方が始まっています。

民藝の父、柳宗悦。モノが持つ美の力を最大限に生かそうと日本民藝館ではある工夫がされています。心砕いたのは展示作品の置き方に、美しく映える棚の色、光をどのように取り入れるかでした。玄関の脇にさりげなく置かれたスリッパ入れの籠、暮らしに息づくカゴのなかでも柳が賞賛した竹細工の籠がありました。

「色の緑が奇麗な上に、油を含んで澤(つや)がある。そうして内からはちきれるような丸さだ。自然は竹を東洋にだけ恵んだ。」
柳が称讃の言葉を数多く残した「竹」。深い雪に覆われた岩手県二戸郡一戸町。最も多くの竹細工を作ると記したこの町に、柳の心を打った竹の民藝がありました。鈴竹細工です。地域で取れる鈴竹を使い丹誠込めて作られる日用品。鈴竹の魅力は何よりもしなやか。弾力性だけでなく、耐久性、耐水性にも優れています。鈴竹細工のキャリアおよそ20年の柴田恵さん。今も材料の鈴竹を集める事から始め、加工し編み上げます。手仕事は昔からのしきたり。素材の鈴竹は1cmに満たない細さ。まずは山で採って来た竹の皮をむき、そして2つに割ります。更に2つに割って4等分に。それから天日干ししてしばらく乾かします。鈴竹細工の中でも「ひときわ上等」だと柳が記したのが「合わせ編み」。竹材には表面と裏面があります。ざらりとした裏面はあまり肌触りが良いとは言えません。一方表面はつややかに輝きつるりとした手触り。合わせ編みでは微妙に大きさが違う2枚の素材を使います。素材を重ね合わせる事で隠れるのが裏面。外側と内側の両方をなめらかな表面にして手触りの良い部分だけが人の手に触れるよう編み上げるのです。当然手間は倍になり編み込む技術も難しくなります。この技術は1200年もの間伝えらえてきました。ところが今はそれだけで生計を立てる事は難しく後継者も不足しています。ザルをつくる柴田武治さん。元大工さんだった柴田さんはまだ始めて5年ほどです。家族が受け継いできたものの後継者が少ないことから始めました。ひとつのザルを作るのに、1日、時には2日。今では生産が追いつかないと言います。

民藝は作り手の思いを感じる伝統技術。当時は一気に近代化が進み大量生産された粗悪品が出回りました。柳はそのような中で手仕事に着眼します。

手仕事に魅せられ思いを馳せる人がいます。文筆家で雑誌「暮しの手帖」の編集長、松浦弥太郎さん。目利きとしても知られ、自らが選んだものについて記した書籍は多くの人から支持を集めています。大切なものと過ごす暮らしの中で出逢ったのが8年前から愛用している「カゴバック」。小鹿田焼の湯のみも金継ぎしながら使い続けています。
作る人、使う人が双方に思いを馳せ時間を共有することができる。手仕事に秘められた力。使う相手への気遣いが形となった民藝は「ものづくり」の原点なのかもしれません。

民藝の品を使うことは暮らしに美意識を取り入れることでした。使ってこそ物の価値があり、使い込むほど美しさを増す「用の美」。美しい自然を映し出し、人と人とをつなぐ民藝。未来に残すべき日本人の暮らし方が民藝には宿っているのです。

日本民藝館

〒153-0041
東京都目黒区駒場4-3-33
TEL:03-3467-4527
URL:http://www.mingeikan.or.jp/

小鹿田焼陶芸館

〒877-1103
大分県日田市大字鶴河内(源栄町) 138番1
TEL:0973-29-2020

BEAMS

〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-24-7 1F・2F
TEL:03-3470-3947
URL:http://www.beams.co.jp/

COWBOOKS

〒153-0042
東京都目黒区青葉台1-14-11
TEL:03-5459-1747
URL:http://www.cowbooks.jp/

エリカ・アンギャルさん


<プロフィール>
1969年オーストラリア・シドニー生まれ。シドニー工科大学卒業、健康科学学士。2004年からミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタントとして世界一の美女を目指すファイナリストたちに「美しくなる食生活」を指南。栄養学、薬理学、生理学など予防医学における幅広い専門知識を駆使し、"内側からより美しく、心も身体もすこやかに輝く"をテーマに、ハッピーな毎日のための食とライフスタイルを発信している。