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2014年1月3日放送
「寿ぐ×和のデザイン」
気持ちを新たにする正月飾りには、自然や神仏に対する感謝の念が込められています。歳神さまを迎え「謹んで新年のお喜びを申し上げます」と言葉を捧げる「言祝ぎ(ことほぎ)」。新年の設えは「寿ぐ」気持ちが形になったものです。
色とりどりの細い紐。これが水引です。人生の節目を美しく結ぶ和のデザイン。和紙を紙縒り(こより)にして水糊を引いて固めたことから「水引」と呼ばれるようになったとか。ここ金沢には水引を結ぶことから生まれた加賀水引という伝統工芸があります。このお店は唯一、伝統的な加賀水引を受け継いでいます。加賀水引は結納などで目にする立体的な水引細工です。ほとんどの立体的な作品はこのあわじ結びを発展させる形で作られています。美しい曲線は加賀水引の命。水引を途中で切ること無く丸く丸く結んでいきます。はさみを使わない作品には縁が切れないようにとの願いも…。この立体的な加賀水引を考案したのが、ここの初代・津田左右吉です。水引の結び目には人との縁を大切にしたいという思いが込められています。そんな水引は人と人を結ぶ「和のデザイン」。
寿ぐ気持ちを結ぶ水引。その下の紙包みにも伝統的な作法があることをご存知ですか?
日本には古来、大切な贈り物を和紙で包んで贈る習慣があります。どんな形のものでも美しく包み上げる作法「折形」。武家の礼法として確立した折形にはいくつかの流派があります。伝統的な折形を代々研究しているのが荒木さんです。流派を超えて集められた折形の資料。その1つ、小笠原流に伝わるひな形には100を超える折りの形が見本として残されています。赤い割り印があるのはその形を正確に伝えるため。包むものによって形が決められている折形は包みを見るだけで中味の種類や価値がわかったのです。さまざまな折の形には陰陽説などの考え方が反映されています。植物は天に伸びる枝ものを「陽」、地に広がる草花を「陰」とするため、包みの折りの数も、枝ものは陽の数とされる奇数回、草花は陰の偶数回で折ります。しかしその理由は未だに謎です。
辛島さん。折形の魅力に惹かれ、現代の生活になじむ折形の使い方を提案しています。昭和の初め頃まで教科書にも載っていたという折形。折形は形を変えて、今も身近なところに残っていました。熨斗(のし)。これも折形の1つ。古来、縁起物とされた熨斗鮑を包む形が熨斗となりました。折り数の多い方が格の高い折り方なのだとか。やがて赤い紙を使って華やかさが加わり、折り方もその時代時代の人々によって様々に工夫されました。まっすぐな直線の美しさはまっすぐな心の表れ。一折り一折りに思いを込めて相手に贈る。紙を折る一手間が人と心を通わせ暮らしを豊かにする。折形とはそんな「和のデザイン」。
お年賀の挨拶といえば手拭い。そのデザインは日本の自然の風景から生まれた伝統的な紋様の宝庫です。そんな手拭いの柄ががらりと変わったのが江戸時代。手拭いは手拭きという役目をこえて様々なデザインを競うキャンバスとなりました。浅草で創業65年の手拭いの店「ふじ屋」。まるでギャラリーのように手拭いが飾られています。江戸のアイディアマン山東京伝。京伝が仕掛けた手拭合わせとは日用品の手拭いにいかに斬新なデザインができるかを競うもの。そんな手拭合わせのデザインに魅せられ、ふじ屋では資料をもとに型紙をおこし当時のデザインを復活させました。手拭いという縦長のフレームに切り取ることで、それまで柄にするなど思いも寄らなかったモチーフが美しいデザインに変わったのです。手拭いは最先端のファッションになり観賞用に飾る人も出てきました。手拭いで江戸のデザインに革命をおこした山東京伝は自らこんな紋様も考案しています。一見、鶴の紋様。でも見方を変えればちょんまげの旦那を上から見たところ。市松模様のようなこの柄はよく見れば、うなぎの蒲焼き。見方をちょっと変えるだけでつまらない日常は輝き始める。江戸のデザインはそんなことを教えてくれます。目に入るものは何でも粋なデザインに変えた江戸の人々。それは彼らが自分たちの住む世界を愛していたからに違いありません。江戸の手ぬぐいはそんな、愛にあふれた「和のデザイン」。
この字、何という字か分かりますか?今年の干支です。漢字は象形文字から生まれています。そして、この漢字から生まれた仮名。実はこのかな文字こそ、日本人が生んだ究極の和のデザインなのです。冒頭で、「馬」という字を書いて下さったのは書道アーティストの横山さん。古典的な書を基本としながら、パフォーマンスやアート制作を行うなど現代の書の形を追究しています。流れるようなかな文字の作品。活字とくらべると同じことを書いているはずなのにまるで違うことを書いているようです。流れるような独特な美しさ…。
独自の文字を持たなかった日本人が初めて自分たちで作った文字が「かな文字」。最初の仮名、万葉がな。この頃は漢字を使って日本語の音を表していました。やがて元の漢字が崩されるようになり…。平安時代の中頃には現在の仮名の元になる「女手」といわれるものにまで変化しました。元の漢字の面影は残っているのに印象はまったく違います。日本語の言葉のニュアンスを文字の形でも表現しようとしたためです。こうしたかな文字の美しさをより際立たせるために、その書き方にも独特の美意識が生まれたといいます。特徴的なのは行の頭が揃っていないこと。よく見ると、言葉の意味からすればおかしなところで改行されています。これを「散らし書き」といいます。紙の上に景色を描くように…。言葉の意味が表す美しさを同時に形でも表現します。かな文字の流れるようなデザインは自然の姿を写し取ったもの。文字のひとつひとつ、文章の配置のすべてから書く人が愛した四季の風景が透けて見えます。やはり文字は手書きで。思いを込めて…。
ものが結ぶ、人と人…。そこにある贈る気持ちを伝えるために和のデザインは生まれました。長い年月をかけて練り上げられた美しい寿ぎの形は言葉を超えて思いを届けます。大切な人への贈り物は笑顔と和のデザインを添えて。
加賀金沢 津田水引折型
〒921-8031 |
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株式会社 荒木蓬莱堂
〒541-0043 |
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折形作家 辛島綾さん |
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染絵手ぬぐい ふじ屋
〒111-0032 |
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書道アーティスト 横山豊蘭さん |