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2013年12月6日放送
「楽しむ×富士山と温泉」
富士箱根伊豆国立公園は日本中の数ある国立公園の中でも最も贅沢な場所です。なんといっても素晴らしいのは富士山の雄姿。そしてここには私たちの大好きな温泉もあります。共に火山活動が生んだ素晴らしい自然の恵。かつて「湯治」が目的だった温泉は日本では行楽として誰もが楽しむものに変わっていきました。東には天下の剣と歌われた箱根山と芦ノ湖が横たわり、西には霊峰富士を戴く富士箱根伊豆国立公園。箱根山のふもと、芦ノ湖のほとりにあったのが東海道の最初の関所「箱根の関」。箱根山中で見え隠れしていた富士山は箱根八里の終点・三島を超えて駿河湾にいたると海越しの姿を見せ刻々とその見え方を変えていきます。ただどの温泉からでも富士山が見えるわけじゃありません。見えるところには見えるなりの理由があるのです。
およそ3000年前箱根火山の水蒸気爆発で生まれた大湧谷。以来ずっと白い火山ガスを噴出し続けています。箱根火山の外輪山越しに見える富士山。大湧谷はそんな2つの火山の歴史を感じられる場所。ただこの辺りには今も有毒な火山ガスが噴出しているため富士山を見ながらゆっくりくつろげる温泉施設はありません。かわりに火山ガスを利用した泉源地が整備され箱根の各地に温泉水を届けています。
今年世界遺産となった富士山。自然遺産ではなく文化遺産としての登録となりました。信仰の対象として、また芸術の源泉として広く愛されてきた富士山。駿河湾越しの富士山が眺められるのは西伊豆。駿河湾を見下ろす高台に一軒の温泉宿があります。「富岳群青」。富士山と駿河湾の群青色の海を同時に眺められる宿です。客室は全部で8つ。すべてから駿河湾越しの富士が眺められます。雄大な富士山と海の青。まさに富岳群青の世界です。実は国立公園の中に建物を建てるには周辺の環境や景観を壊さないよう建物の高さや色合いまで様々な規制があります。富岳群青の建物は背景の山に馴染ませるため高さを低く抑えた平屋造り。そうして作られた宿は国立公園の最も素晴らしい景色を堪能できる場所。この宿に泊まるお客は一日のほとんどを部屋で過ごすそうです。いつどんな富士山が目の前に現れるか…出会いを楽しみに富士山を待ちます。温泉に入って富士を見る。それは気まぐれな富士山を気長に待つための工夫…なのかもしれません。
箱根湯本をはじめとした十七湯もの温泉場がひしめき、今や国際観光都市として世界にもその名を知られる箱根。しかし箱根の多くの場所では周囲の山に遮られ富士山は見えないことがほとんどです。というのも箱根の名所のほとんどは火山の噴火によって陥没したカルデラ地の中にあるからです。実は私たち日本人が温泉をこんなに楽しむようになったのも箱根のおかげなのです。箱根・芦の湯温泉で、創業350年の歴史を誇る鶴鳴館・松坂屋本店。『富士山の見えるところに温泉無し』。温泉は谷底などの低いところに湧くため富士が見えるような高いところには無いという意味ですが、裏を返せば「箱根では富士山の見える場所は少ないけれど、温泉が湧くところは多いですよ」ということ。至る所で温泉が湧いた箱根では奈良時代に湯本温泉が開いて以来、芦の湯、宮の下、塔の沢と次々に温泉場が生まれました。そして江戸時代には「箱根七湯」といわれる一大温泉場となったのです。江戸時代の中頃までは箱根も療養が目的の「湯治場」でした。「七日三回り」と言われ三週間ほど滞在するのが普通だったとか。箱根の温泉の特徴はその泉質の種類が多いこと。芦刈の湯と呼ばれる源泉には硫黄泉・炭酸水素塩泉など効能の異なる複数の成分が含まれています。江戸時代の温泉番付では芦の湯の泉質は箱根一とされたとか。箱根七湯を巡ればさまざまな効能の温泉に入れると箱根に多くの人々が療養に訪れました。それが変化し始めたのが江戸時代の後期。いつしか「箱根七湯は温泉の周遊コースとして人気を博すようになりました。東海道をゆく旅人の遊び心が加わって温泉は「楽しむ」場所に変わりました。
江戸時代の終わりに観光地となった箱根の温泉。塔ノ沢温泉郷の入り口に明治23年創業の福住楼があります。島崎藤村や川端康成など多くの文人墨客にも愛され、国の登録有形文化財にも指定されています。この宿は交通量が多い国道に面していながら建物の中にはなぜか町の喧噪が聞こえてきません。お気づきですか…?この部屋には周りを取り囲むように縁側が作られ、目の前には早川の流れ。川の音が外界と部屋の中を分かちます。ですが文人たちの心を最も癒したのはもちろん温泉です。大きなアカマツをくり抜き樽のように組み合わせた大丸風呂。大人2人も入ればいっぱいの小さなお風呂です。聞こえてくるのは水音だけ…。箱根の静かな温泉宿はやすらぎを与える場となりました。
富士箱根伊豆国立公園も山梨県に入ると富士山はもう目の前です。富士山は国内最大の活火山。山麓にはさぞかし多くの温泉が湧いているだろうと思いがちですが実は富士山麓に初めて温泉宿ができたのは平成に入ってから。富士吉田市にあるホテル鐘山苑。富士山麓に初めて温泉を作ったホテルです。富士山は深く採掘しないと出て来ない非火山性の温泉です。掘削技術の発達で温泉の湧出に成功し、平成5年に富士山麓で初めての温泉宿となりました。1500万年もの昔に富士山が海底火山だった時代の岩盤を通って生まれました。富士のルーツが育んだ温泉です。
富士山の絶景をもう1つ。「ほったらかし温泉」。甲府盆地の向こうに富士山を望む標高700メートルにある日帰り温泉です。開業当初は岩風呂1つと脱衣所しかありませんでした。その他のサービスは何も出来ませんというところから「ほったらかし」という名前がついたそうです。実はほったらかし温泉は日の出の1時間前から営業しています。もともと開業時間は朝10時からでした。ある日ふとこの風景を是非お客さんにも楽しんでもらいたいと思い7年前に開業時間を早めたといいます。朝日とともにシルエットの富士山も美しい姿を現すはずです。身体を温めてくれるのは富士山が育んだ温泉。そして心をほぐしてくれるのは富士山の姿。たとえ目には見えなくとも富士山は私たちの心の中にあります。
富岳群青
〒410-3303 |
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鶴鳴館 松坂屋本店
〒250-0523 |
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福住楼
〒250-0315 |
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ホテル鐘山苑
〒403-8522 |
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ほったらかし温泉
〒405-0036 |