SHISEIDO presents エコの作法
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2013年11月29日・12月27日放送
「温もる×郷土の汁」 

いつしか秋が過ぎ去り、気付けばもう師走は目の前。しんしんと冷える冬、恋しくなるのは…冷えた身体を温め心もほっと和ませてくれる、ふるさとや母の汁の味。2013年12月。ユネスコの無形文化遺産に登録される「和食」。日本人が大切にしてきた食の文化です。中でも最も身近なものの1つが郷土料理。海では海の恵みを頂き、里では里の恵みを頂く。家族の味は日々の糧になり、その温かな記憶が未来へと繋がっていきます。

日本有数の漁場、富山湾。標高3000m級の険しい山々と、それに連なる深さ1000mを越す深海。起伏に富んだ海底の地形が豊かな海を育みます。ここ氷見市は有名な寒ブリをはじめ、数多くの魚が水揚げされる町。その美味しさを味わうのに必要なのは…早起き!朝4時。まだ暗い中、漁の準備が始まりました。漁師さんたちが朝ご飯も食べずに支度に追われています。400年もの歴史ある氷見の定置網漁。魚を獲り過ぎることなく海との共存をはかる日本の伝統的な漁法です。朝8時。やってきたのは氷見漁港。既に仲買人たちの威勢のいい声が飛び交いセリが始まっています。ようやく一息ついたのは出港から6時間後。やっと食事の時間です。食材は商品にはならなかった魚達。その日ごとに違う魚で作るのです。調理場は地元の港に帰るまでの船の上。豪快に味噌だけで味を整えます。さぁねぎを散らして…。氷見の漁師さんたちに伝わる「かぶす汁」が完成です。「かぶす」とは地元の言葉で「漁師の分け前」という意味。まさに仕事で頑張った分だけ頂く海の恵み。

一方、山里では…。夏に枝豆として食べる大豆は冬に葉が落ちて鞘が枯れると収穫期を迎えます。氷見の里ではまだ青さの残る大豆を汁にするそう。全国各地にいくつかある「呉汁」。まだ青さの残る大豆で作るのは珍しいそうです。大きなすり鉢を使ってすりつぶすこと10分。この状態になったのが「呉」と言われるもの。出汁と味噌を溶いた鍋の中に「呉」を入れていきます。するとすりつぶした大豆が空気をふくんで、まるでメレンゲのようにふわっふわに!素材そのものの味がする「呉汁」は栄養価も高く寒い時期にぴったりの里に伝わる汁もの。家族の笑顔がなによりごちそうを物語ります。

繊細な日本の食文化を牽引し続ける古都、京都。訪れたのは東山、南禅寺の門前にたつ「瓢亭」。京都で400年以上懐石料理の歴史を築いてきた老舗です。日本料理の大本にもなっている茶懐石。その基本は一汁三菜または一汁二菜。まず頂くのはご飯とお味噌汁、そして向付けと呼ばれるお造り。一汁三菜の「汁」とはこの味噌汁のこと。ごはんは「とりあえず炊きたての一口をどうぞ」という亭主の心入れ。お味噌汁はとろりとした白味噌仕立て。続いては菊の花を施した華やかな「煮物椀」。蓋を開けると湯気とともに広がるふくよかな香り。煮物椀は椀だねの取り合わせ、季節感、つゆの味の調え方など、亭主がもっとも心をかけた一品。心配るもてなしの料理、茶懐石で汁ものはその極み。四季に合わせ食材、料理、器を愛で気持ちも豊かに頂く。蓋を開けると広がるのは日本人の繊細な感性なのです。

日本の汁ものに欠かせない調味料「味噌」。もともと食べ物に付けるものだった味噌。味噌汁が作られるようになったのは鎌倉時代でした。それから一汁一菜が武士の食の基本となったのです。都内にある老舗の味噌店。ズラリと並ぶのは全国各地の味噌およそ70種類。原料は「大豆」に「麹」そして「塩」だけ。その配合や熟成期間が違うだけで全国には千種類以上の味噌があるといいます。味噌はまさにその土地の気候や風土を凝縮したもの。

愛知県岡崎市。ここは古くから大豆の栽培に適していました。そして生まれたのが大豆だけで作る味噌「豆味噌」。全国に名を知られる「八丁味噌」です。名前の由来は岡崎城から西へ八丁離れた八丁村で作られていたことから。創業およそ680年の歴史をもつ「まるや八丁味噌」。室町時代から変わらないというその製法。桶の上に山のように石を積み上げた光景も当時と同じです。重しに使うのは天然の川石。積み上げるのはすべて人の手です。原材料はこの大豆麹。大豆に麹菌を付けて発酵させたものです。古い杉桶の中には200年前から使われ続けているものもあるそう。味噌を仕込むのは石積み職人の染次さん。ならしては踏み固め、またならす。この単純な作業で余分な空気を抜き石積みの土台をつくります。同じように見えても石には1つ1つ違う顔があると言います。この石の顔が見分けられないと石積みはできません。八丁味噌の醸造期間はおよそ3年。その間傾いたりするこのとのないよう重心を真ん中にしてしっかりと積み上げます。地元の風土と先人からつながる思い…味噌汁が温かいのはそれらがとけ込んでいるからなのかもしれません。

京都、伏見。太古の昔から続くという日本有数の酒どころです。冬を迎え酒蔵の仕込みが始まる頃、地元の人が楽しみにしている汁物があります。搾りたての酒粕でつくる「粕汁」。酒粕にこだわる辻さんが訪ねたのは古い付き合いの酒蔵。頂いたのは今年搾りたての酒粕。下ごしらえは奥さん。昆布だしをとったら、豚肉に油揚げ、大根と人参を入れて煮込みます。そして忘れてならないのが白味噌。具材に火が通ったらいよいよ酒粕の出番。少しずつ、少しずつ。やがて日も暮れかけた頃、とろっとろの粕汁が完成しました。冬の食卓に温かさを運ぶ「粕汁」。代々伏見の家庭に受け継がれてきたこの季節ならではのごちそうです。受け継がれてきたのは家族の愛情そのもの。汁ものが人を結びポカポカと絆を温めます。

あまりにも身近で当たり前に食べていた「郷土の汁」。その味こそ日本の心でした。それぞれのふるさとに伝わる温かな汁もの。あの味、この味…。「郷土の汁」を味わうことは日本の豊かな自然と心を知ること。一杯の汁ものでこの冬温まりませんか?

かぶす汁(灘浦定置漁業組合)

〒935-0424
富山県氷見市小杉266
TEL:0766-72-3333

呉汁

〒935-0000
富山県氷見市

茶懐石(瓢亭)

〒606-8437
京都府京都市左京区南禅寺草川町35
TEL:075-771-4116
URL:http://hyotei.co.jp/

味噌汁(佐野みそ)

〒136-0071
東京都江東区亀戸1-35-8
TEL:03-3685-6111
URL:http://sanomiso.co.jp/store.html

味噌汁(まるや八丁味噌)

〒444-0923
愛知県岡崎市八帖町往還通52
TEL:0564-22-0222
URL:http://www.8miso.co.jp/

粕汁

〒612-0000
京都府京都市伏見区

ジェニファー・ジュリアンさん


<プロフィール>
フランス、ボルドー出身。1997年に来日して以来13年間を日本で暮らす。和歌山県庁の国際交流員として勤務。NHK「フランス語会話」ではレギュラー出演。ワインプロモーター、フランスの食と文化のアドバイザー、レストラン運営サポート、海外コーディネート(フランスツアーなど)、フランス文化の紹介、また食にまつわる仕事を中心に活躍する。