SHISEIDO presents エコの作法
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2013年11月8日・12月20日放送
「導く×世界遺産 厳島神社」 

厳島神社にお参りするなら、船に乗り海から行くのが本式です。朱塗りの大鳥居をくぐればもう別世界…。入り江に浮かぶように建てられた壮麗な神社はあらゆる細部にまで徹底した美意識が貫かれています。瀬戸内海の小さな島・宮島。遠い昔から神の島として深い信仰を集めてきました。大切に守られる自然。島を訪ねると幾つもの絶景に思わず息を呑みます。そこは1200年の歴史が今も脈々と息づく場所。

万葉の頃「いつき」という言葉がありました。身を清めて神様にお仕えすることを指します。それが島の名前の由来とか。シンボルとも言える大鳥居。厳島神社の創建は約1400年以上前に溯るといいます。島に入り江を造り日本に二つとない海の上の神社に変貌させた人物。それは平清盛です。実はこの鳥居、海底に埋め込まれたわけではなくそれ自体の重さで海に立っているのです。厳島神社の参道はこの海そのものです。

厳島神社では境内である入り江の海を玉御池(たまのみいけ)と呼んでいます。海上に社殿を設けたのは神様の島を汚さないためとも言われています。厳島神社の様式は寝殿造りで中心となる建物と東西の棟が廊下で結ばれます。敷地が海ならば廊下は海面の上を渡した回廊。その回廊も国宝です。海上の社殿には自然と巧みに折り合いを付ける知恵が隠されています。高潮などで潮位があがり建物が海に押し上げられ倒れてしまう危険を防ぐために回廊の板に隙間が造られ負荷が掛からないようになっています。そして床を支える柱はかつて20年ごとに取り替えられる木の柱でしたが、500年近く前に石になりました。一段高くなっている高舞台も礎石に柱が乗っているだけなので、たとえ高潮で床が浮き上がってもまた元に戻る仕組みです。自然に逆らうことなく共生してゆく考え方はエコの原点でしょうか。高舞台もまた室町期に再建された国宝で、ご祭神を祀る御本社は日本の神社で広さが最大の本殿です。

厳島神社が世界文化遺産に登録された理由の1つが神道と仏教の両輪が生んできた文化的資産への評価でした。室町時代に寄進された五重塔の隣に豊国神社千畳閣。戦乱の世に死者たちの霊を慰めようと豊臣秀吉が建立を命じた大経堂は西日本最大の木造建築です。厳島神社の西回廊を出たすぐ先にも弁財天を本尊とする大願寺。大願寺は明治維新まで厳島神社の修理や造営などを司ってきました。明治に入り神仏分離令で廃仏毀釈が進んだとき近隣の仏像が大願寺に集められました。世界文化遺産登録の背景には国策と闘って文化を守った大願寺のような寺の存在があったのです。宮島弥山大本山・大聖院。弘法大師空海が開いたと云われる寺は厳島神社の祭りを司ってきました。勅願堂には恐ろしい形相のご本尊、豊臣秀吉が朝鮮出兵のおり必勝と海上安全を祈願して奉納した波切不動明王がいます。

世界文化遺産の対象となったのは神社と海と島の原始林です。紅葉谷川の流れを見下ろして一軒の宿が建っていました。旅館・岩惣。例年10月15日に行われる氏神祭りの神輿は岩惣の前で一休みするのが古くからの慣わしです。ここ岩惣が発祥というモミジ饅頭。あの伊藤博文が宿泊したとき、モミジの葉をかたどって菓子にしたらと口にしたのが始まりだそうです。

神様の島を傷つけたり汚したりすることは出来ない。宮島では農業も漁業も固く禁じられ、住民のお墓さえ海を渡った廿日市市に造られています。人口は2千人足らず。多くが観光にまつわる仕事に就いています。杓子は江戸時代の僧、誓真の考案です。弁財天のビワになぞらえここに産業を根づかせたと言われています。けれど最近は後継者不足が大きな問題だと聞きました。土鈴に丹精を込める竹井さん。モチーフは厳島神社の風物や干支の動物など。カランカランと素朴な音が魅力です。木目の風合いを楽しむ宮島ろくろ細工。材料はもちろん島の外から。技術だけが財産です。貴重な木材は水分を抜くために何年もかけて乾燥させます。宮島彫りは彫刻刀一本でお皿などに立体的な彫刻を施す技法。島でただひとりの伝統工芸士、広川さん。彫り上げるのはやはり厳島神社の景色。浮き上がるような立体感が魅力です。5年前広川さんの元に大野さんが現れ、今や後継者としての期待が寄せられています。時の流れに鍛えられてきた技術を未来へ。

旅の終わりに向かったのは弥山の頂です。宮城の松島、京都の天橋立と並び日本三景の1つに数えられてきた宮島。弥山を覆う原始林は天然記念物。そこには太古からの自然が残されていました。弘法大師空海は宮島に立ち寄ってこの山の放つ霊気に感銘を受けたと言います。だからここは空海ゆかりの山。山頂の手前には巨大な奇岩が待ち受けていました。神秘的なパワースポットの佇まいです。頂からは遮るもの1つない絶景、霞に煙る瀬戸内の海が臨めました。それにしてもなぜ巨大な岩石がここに集まっているのか。合理的な説明はいまだについていません。石の中には不可解なほど平らな断面を持つ物もあります。私たちは知らぬ間にその謎に引き寄せられているのかもしれません。

嚴島神社

〒739-0588
広島県廿日市市宮島町1-1
TEL:0829-44-2020

嚴島辨財天本堂大願寺

〒739-0588
広島県廿日市市宮島町3
TEL:0829-44-0179

宮島弥山大本山 大聖院

〒739-0592
広島県廿日市市宮島町210
TEL:0829-44-0111
URL:http://www.galilei.ne.jp/daisyoin/

旅館・岩惣

〒739-0522
広島県廿日市市宮島町もみじ谷
TEL:0829-44-2233
URL:http://www.iwaso.com/

宮島細工協同組合

〒739-0505
広島県廿日市市宮島町1165-2 宮島伝統産業会館内
TEL:0829-44-1758
URL:http://www.miyajimazaiku.com/

フンク・カロリンさん


<プロフィール>
1961年ドイツ・フライブルク市生まれ。広島大大学院総合科学研究科准教授。1987年愛媛県松山市に留学生として来日。98年フライブルク大博士(人文地理学)。同年広島大総合科学部講師。2001年から同大助教授。瀬戸内海の観光問題など論文多数。日本で25年以上暮らしている。専門は観光地理学。博士論文のテーマは『日本の周縁地域における観光開発』。