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2013年7月26日・8月16日放送
「実る×伝統野菜」
太陽の光を受けていのちを育む大地。そんな自然の恵みをたっぷり蓄えて実る「野菜」。
もともとは自然の中に自生していた植物の中から、先人たちは、より美味しく、栄養のあるものを見つけ出し作物として栽培しはじめたのです。ただの植物を「作物」に変えるために必要だったこと…。それが「種を採る」作業です。一粒一粒の種は、その土地の気候風土を記憶し次の世代に繋げるタイムカプセル。種を絶やすことなく作り続けられてきた野菜はその土地の人々のいのちを繋ぎ、また郷土料理となって季節の行事を彩り、代々、受け継がれてきました。
東京・青山通り。この広場では、毎週末農家による直売の市場が開かれています。無農薬や有機栽培など、安心・安全への関心も高まり、こうした直売の市場も珍しくなくなってきました。四季がはっきりと分かれている日本では季節ごと、地域ごとに様々な野菜が収穫できます。しかし、栽培方法と流通が発達した今では旬に関わらず年中同じ野菜がお店に並ぶのも確か。形や大きさも日本中どこでも似たり寄ったり。でも、昔はこうじゃなかったのです。人の世界にお国なまりがあるように野菜にももっと郷土色がありました。千年の都が磨き上げた京野菜。今でも、一部の地域ではその土地ならではの「伝統野菜」が栽培されています。こうした郷土色ある野菜が今再び、見直され始めています。
山形県の日本海側に広がる庄内平野。毎年5月頃、この山には横向きの老人が、少しかがんで種を蒔いているように見える模様が現れます。地元の人は、これを「種まきじいさん」と呼びます。この模様が現れたら種まきを始める合図。蒔かれた種は、山の雪解け水を吸って、すくすくと育っていきます。そうした季節の在来作物を取り入れ、美味しく食べさせてくれる農家レストランが山形の庄内地区にはたくさんあります。
鶴岡市にある「知憩軒(ちけいけん)」もそのひとつです。農家のたたずまいを残す囲炉裏のある空間で郷土の野菜を頂きます。出される野菜は、ほとんどが自家栽培。自宅の畑で、必要な分だけ植えています。畑には、インゲンや、きぬさやなど、在来でない旬の野菜もたくさん実っています。そして、出されるのは保存食もあります。昨年の秋に収穫した在来の「宝谷かぶ」を沖漬けにしたものです。冬場の栄養源として、雪国の人々の命をつないできた作物です。在来野菜は土地の歴史を後世に繋ぐ文化財でもあります。
しかし、労力の割に収穫が少ないことから生産者が減り、今では、この宝谷かぶもたった一人のおじいさんが種を守っています。こうした思いを持つ人々が繋がり、山形では奇跡的に在来野菜が守られてきました。今、そんな山形の在来野菜の映画が話題となっています。「よみがえりのレシピ」。山形でも一旦は消えそうになった在来作物が様々な人々の力でよみがえるドキュメンタリーです。独特の苦みや甘味など、野性味のある味が在来作物の特徴。それが敬遠された時代もありましたが、再び、そうした個性が見直され始めています。
そして、地元レストランの料理が山形の人の在来作物を愛する心に火を付けました。けれど、そもそも山形でたくさんの在来作物が見られるのは最後の一人になってもその種を守り続けた人がいたからです。自分の所で種を採って守っているのは、唯一、この新野さんのところだけです。きゅうりなんていつでもあると思ったら大間違い。畔藤(くろふじ)きゅうりの旬は6月の初めから7月初めまでと短いのです。普通のきゅうりは白いイボがついていますが、畔藤(くろふじ)きゅうりは黒いイボがついています。色は淡く、通常のきゅうりに比べると10センチ以上も長いのが特徴。あらためて畑を見渡すと、黄色くなった実が、ツルからたくさんぶら下がっています。実はこれがとても大切なものなのです。「F1種」とは,効率よく同じ形の作物が実るように品種改良されたもの。形の揃った実が成るのは一代限りで、翌年はまた、新しい種を買って栽培します。近年の農業では、このF1種による栽培がほとんど。一方、在来作物は毎年、種を採ります。
45年間、一人で種を守ってきましたが、昨年、やっと種の保存を引き継いでくれる人がみつかりました。同じ白鷹町で農業を営む川井さんです。日本中の在来作物が消えて行く中、山形では、なぜか、この最後の一人が種を捨てずに守ってきました。この時期は、鶴岡の温海(あつみ)地区で温海カブの種の選別が行われています。乾いたサヤを叩く音はこの地域の季節の風物詩。在来作物の種は実りの喜びとともにその土地の記憶を未来に伝えます。
東京・吉祥寺の高橋さん。「旅する八百屋」と称して配達と移動販売のお店を始めました。扱っているのは、様々な在来野菜です。現在、野菜を送ってもらっているのは長崎県の岩崎さんという農家。地元のものだけでなく、各地の在来野菜を栽培しています。実は岩崎さん、日本各地で途絶えそうになった野菜の種を農家から引き継いで、育てているのです。そんな岩崎さんの畑からは毎週、様々な在来野菜が届きます。どの野菜も長年、種を繋いで来た在来種です。毎週10種類以上の野菜が届きます。何が入っているかは箱を開けてのお楽しみです。最近の一般的な農業では種を採取しないこと。しかし、代々「種」を守っている人がいること…。畑に育つ野菜を見たことがない人たちに本来の野菜の姿を伝えます。在来種の野菜は、種を作り子孫を残します。しかし、普段よく見るF1種の野菜は、種の循環はありません。野菜が自らの一生をかけて生み出した種。人間はその恵みをいただき、守ってきました。伝えたいのは、生産者の思いと、野菜そのものの思いです。いつも食べている野菜は種から実り、種に還る…。そんな当たり前のことを在来野菜は教えてくれます。
Farmer's Market@UNU
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5–53–70 国際連合大学前広場 |
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知憩軒
〒997-0332 山形県鶴岡市西荒屋宮ノ根91 |
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シェア畑(取材場所)
TEL:0120-936-466 |
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