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2013年7月5日・7月19日放送
「繋げる×出雲」
そこは遥か昔から神々が集う場所。今でも一年に一度日本中のありとあらゆる神様が、この海を渡ってやってきます。目に見えない世界を司る神がおわす神秘の国…出雲。伊勢が20年に一度の遷宮に沸く今年は、実は出雲も遷宮の年なのです。出雲大社の遷宮は60年に一度。新しくなったばかりの清々しい檜皮葺の屋根は一生に一度拝めるかどうかの貴重なもの。
遷座祭(下記)を終えたばかりの本殿は、周りをとり囲む瑞垣にいたるまで全ての屋根が葺き替えられ清々しい姿でそびえていました。出雲大社の遷宮とは主に建物の御修造。屋根を葺き替え、傷んだ部分だけを直す大規模な修理なのです。御本殿は1744年に建てられたもので、以後60年に一度遷宮の度に修理され現在に至ります。それ以前の御本殿は何度も倒壊を繰り返したようで、かつてはその度に新築し遷宮を行っていたようです。
今回の修理が始まったのは5年前。その間は拝殿が仮の本殿とされご神体はそちらに移されていました。現在は遷座を終え、再び御本殿に戻られています。白木の簡素なお社を建て替え、全てを新しくする伊勢神宮の遷宮は作り変えることで技術と思いを繋ぐもの。一方出雲大社の遷宮は、日本一大きな御本殿を修理しながら次の世代に繋げてゆきます。御本殿の裏側は背後の八雲山に繋がる静かな森。ここからは修理の終わった本殿の屋根を間近に見ることができます。屋根を保護するために施される「チャン塗り」と呼ばれる塗装法。実はこのチャン塗り、前回の昭和の遷宮では行われていませんでした。60年後の職人に「いい仕事をしている」と言われたい…。現在大社の遷宮に携わる職人たちはそう語ります。
出雲大社の本殿遷座祭が行われたのは5月の新月の日。神様をお移しする儀式は月のない「浄庵(じょうあん)」の中で行われます。出雲大社の遷座祭では、御太刀(おんたち)や錦の御旗など、威儀物と呼ばれる品々が行列に加わり、奉納されます。中でも剣は出雲神話とも深い関係があります。有名なヤマタノオロチの伝説。須佐之男命がヤマタノオロチを成敗したこの川の上流では今も刀剣作りの伝統が守られています。中国山地に分け入った奥出雲町。この地で刀を作り続ける人がいます。刀匠、小林力夫さん。小林さんの作った刀は今回の出雲大社の遷座祭でも威儀物として奉納されました。日本刀の特徴は、その身の部分だけでも美術的価値が高いこと。鏡のごとく研ぎ澄まされた刀には清浄な魂が宿ると考えられました。そんな日本刀の材料となるのは伝統的な製法で精製された純度の高い和鋼(わこう)です。そんな中でも、小林さんの日本刀は純度の高い玉鋼(たまはがね)でしか作れません。炎の中で砂鉄と木炭の炭素が結びついて玉鋼は生まれます。それが「たたら」と言われる製鉄技術。
しかし、山を切り崩して砂鉄を取り大量の炭を焼くために木を伐採した製鉄は自然破壊の上に成り立ってきたのも事実。実際ここでも江戸時代の初めから砂鉄を取るための「鉄穴(かんな)流し」によって多くの山が削られてきました。その場所は現在美しい棚田の風景です。この自然豊かな景観は砂鉄を採るために切り崩した山の跡に作られたものです。奥出雲町の広大な水田は、その3分の1が砂鉄を採取した跡地に作られたものだとか。田んぼの水路も鉄穴流しに使われた水路をそのまま利用しているそうです。よく見ると所々にぽこりぽこりと小山が残されていました。先人たちは祖先を敬い、代々残された場所には手を加えなかったと言います。
出雲大社の近くを歩いているとあることに気づきます。家の軒先には竹筒にいけた花。実はこれ、神様と一緒に暮らしている印なんです。6月1日。出雲大社から西へ延びた「神迎えの道」はたくさんの人で賑わっていました。手に持っているのは竹筒…。目指しているのは「稲佐の浜」。国譲り神話の舞台となった場所です。浜で行われるのは「潮汲み」。この土地に伝わる風習で、汲んだ海水で身を清めます。毎月一日は潮汲みの日。この水を持って出雲大社や地域の神社を参拝します。この町に古くから伝わる禊の風習。
6月1日、この日は出雲の人々がこの夏の無事を占う日でもあります。出雲に夏の訪れを告げる「涼殿祭(すずみどのまつり)」。出雲の森と呼ばれるご神木の前で行われる神事は白い夏服に衣替えした大国主命がこの場所で涼んだという故事にちなんだもの。みなさん祭礼が終わるのを今か今かと待ち構えています。待っていたのは、神様の通り道に敷かれている、災厄をよける力があるとされる真菰(まこも)という植物です。実は沿道の人々が待っていたのは宮司が踏みしめた後の真菰。この真菰を持ち帰り、お供えするとこの夏を無事に過ごせると言われています。
出雲大社
〒699-0701 島根県出雲市大社町杵築東195 |
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小林日本刀鍛錬場 〒699-1821 島根県仁多郡奥出雲町稲原 |
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稲田神社
〒699-1821 島根県仁多郡奥出雲町稲原354 |
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須賀神社
〒699-1205 島根県雲南市大東町須賀260 |
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島根県立古代出雲歴史博物館
〒699-0701 島根県出雲市大社町杵築東99番地4 |
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神迎えの道 |