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2012年8月10日・24日
2014年8月22日放送
「富士山×清める」
標高3776メートル、日本一の名山として世界に知られる、富士山。
孤高にそびえる姿は古くから人々を強く捉えてきました。
大地と天とを結び合わせる山は、神々が降りてくる聖地。富士山は篤い信仰を集め続ける霊峰です。
圧倒的な存在感に触発されて、数え切れない芸術作品も生まれてきました。
一方で富士は巨大な貯水装置、あるいは浄水システムとして、周辺に豊かな自然をもたらしています。雨水は長い歳月をかけて山肌から浸透し、まろやかでひんやりとした銘水に生まれ変わって、こんこんと湧きだしていました。だから富士は、水の山でもあるのです。
頭を雲の上に出し、雷さまを下に聞く…
唱歌に歌われる名峰は、私たちの心と身体を、深く清める、特別な力を持っていました。
そもそもなぜ、富士山と呼ぶのでしょか。
竹取物語には、かぐや姫が天に帰ったのち、姫の残していった不死の薬を、帝が、最も高い山の頂で焼く…というエピソードがあります。
姫のいない下界では不死も虚しい…
だから、この山は不死の山…富士山になったと、物語は伝えます。
静岡県富士宮市…
富士山本宮浅間大社は富士山そのものをご神体としています。
かつて霊峰、富士は、修験者などの限られた人々だけが立ち入る、神聖な修行の場でした。その名残なのか、浅間大社のさらに奥に位置する、山宮浅間神社には社殿がありません。いにしえの人々は、ここから見える富士を拝み、祈りを捧げたのです。
その富士山に、毎年30万人を越える人々が挑んでいます。
要所要所に、登山客をもてなす山小屋があります。
標高2780メートルの高みに建つ、御来光山荘…。
こちらでは、雨水を溜めて使っていました。
山小屋が開く二ヶ月間は、天からの恵みが命綱です。
過酷な環境のもとで、自然と巧みに付き合いながら、連綿と繰り返されてきた山小屋の営み…
極力ゴミを出さず、大地に返せるモノは、そのまま土に返す工夫もこらしています。世界に誇る名峰、富士を決して汚さないために…
湿り気を含んだ風が富士山にぶつかるとそこに様々な雲が現れ、雨を呼びます。
降り注ぐ雨はすそ野を潤し、多様な生き物たちを支えます。
同時に、山肌から染み込んだ水は、長い間、山中を伏流し、やがて湧き水となって、下界に絶景を創り上げてきました。
富士が、水の山…とも呼ばれるゆえんです。
溶岩流によって、山中湖と隔てられた忍野湖は、湖こそ干上がったものの、いまも美しい湧き水で知られる名所です。
そして、あたかも無数の絹糸をみるような、白糸の滝…
水が湧き出す場所は百を超えますが、川と呼べるような川はありません。
そこには理由があります。
富士山が誕生したのは十万年前…
山としては、まだ極めて歴史が浅いからだと考えられているのです。
およそ20年の歳月をかけて、山中で濾過された湧き水は、澄んだ水を好む、ワサビの栽培にはうってつけです。
水の中には、多くの魚も…
活火山である富士山の周辺には温泉も数多くあります。
これもまた、登山者たちを癒す恵みでしょう。
火の山であり水の山…富士は、命の山なのです。
豊かな水を蓄えて大地を潤し、美しい景観で、私たちの乾いた心までも潤す山…富士山。
人と自然との揺るぎない共生を支える、エコの原点がありました。
富士山本宮浅間大社
住所:静岡県富士宮市宮町1-1 |
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御来光山荘 新七合目
住所:富士宮市粟倉1332 |
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