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2012年8月3日・17日
「赤×蘇る」
青い空。萌えるような緑。
人は、自然の美しさの中にさまざまな「色」を見いだし、暮しを彩ってきました。
その中でも私たち日本人が最も大切にしてきた色が「赤」。
「アカルイ」という言葉から「アカ」という色の名前は生まれたといいます。
大地に降り注ぎ、自然を育む太陽の光に人は「赤」を感じたのです。
日本の伝統色の中でも「赤」系統の色の種類が最も多いといいます。
朱、茜、紅、緋色、臙脂色…。
微妙に異なる赤の色にそれぞれ名前をつけて区別してきた日本人。
その色名のほとんどは平安時代に生まれたもので、
日本人は、様々な赤い色を自然の植物の中から発見しました。
古くから口紅や頬紅に使われた「紅色」は紅花の花弁から得られます。
黄色の下に赤い色素が含まれ、水にさらして乾燥させると、
黄色が溶け出して鮮やかな紅色が現れます。
紅色の色素はたった1%しか含まれない貴重品です。
日本人の心の花、桜。この淡い花の色を再現したのが「桜色」。
花びらの色は、なんと桜の木の皮を煮だすことで生まれます。
赤い色が採れるのは植物からだけではありません。
格子戸を彩る「ベンガラ」は赤い土から生まれる大地の赤です。
そして、日本の赤といえば「朱色」。
鉱物からとれる「朱」は眼も覚める鮮やかなアカ。
朱の色は神様が宿る色として、古くから神社仏閣に使われてきました。
全国に3万社もある神社「お稲荷さん」の総本宮として、老若男女に親しまれている伏見稲荷大社。
建物に塗られた、やや黄色みを帯びた赤は「鉛丹(えんたん)」と呼ばれる朱色の顔料。
現在でも多くの神社に朱色の丹が塗られています。
古くから生命力を表す色、また神の色として
神社仏閣に朱が塗られたのは神聖な領域を示すためのものだと言われています。
さらに境内を奥に進んで行くと、並び立つ朱色の鳥居が現れます。
無数に連なる「千本鳥居」。
見渡す全てが赤。
鳥居の赤は、神の力を宿し、神に感謝するための色。
現在も多くの人が鳥居を奉納し、その数は1万基にも及びます。
太陽と命の色、赤。
その神秘的な赤の力を後世に繋ぐため、
いにしえの人々が力を借りたもの、それは「漆」でした。
9000年も昔の縄文時代の遺跡。
埋葬された死者が身につけていたのは赤い漆を塗った織物でした。
沈んでは上る太陽の赤は復活再生の象徴。
死者のそばで、その色を護り続けたのが漆だったのです。
衣食住の「食」においても赤は大切な色。
赤はおめでたい色として、祝いの膳には赤い食べ物が並びました。
その名もおめでたい、「鯛」。
これほど鯛が珍重されたのは脂が少なく腐りにくい魚であったこと、
そしてこの赤い色が魔除けの意味を持つとされたからです。
火が文明をもたらし、太陽が自然の恵みをもたらすように、
「赤」という色は、私たちに蘇る力を与えてくれます。
赤に勇気をもらい、赤に癒され、赤に祈る。
私たちは「赤」に護られて生きています。
伏見稲荷大社
住所:京都府京都市伏見区深草藪之内町68 |
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輪島屋善仁 塗師の家・展示販売ギャラリー
住所:石川県輪島市河井町1-82-3 |
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染司よしおか
住所:京都市東山区西之町206 |
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日本画材料専門店 得應軒
住所:東京都台東区谷中1-1-22 |
ミーシャ・ジャネット
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