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2011年6月17日・7月1日放送 「適える×和紙」
生命力溢れる、木々
そして、清らかな水
自然の恵みが、そのまま息づき受け継がれているもの・・・「和紙」
千年の時を経ても、風合いは変わることなく、繊細、かつ強靭、そして最期は土にかえる
「適える(かなえる)」
用途に応じて、様々に適応する和紙。
日本の文化は、和紙とともに育ちました。
自然の恵みと人々の叡智がそっと寄り添う和紙。
それは、日本のエコの心、そのものかもしれません。
越前和紙のふるさと、福井県、越前市。
昔ながらのたたずまいを残すこの町は、日本一の生産量を誇る、手すき和紙の都。今も30軒あまりの工房で、手作業によって和紙が作られています。
訪れたのは、手すき和紙職人、岩野平三郎(いわのへいざぶろう)さんの工房。
創業は明治初期。
いまも、多くの職人さんが手すきの越前和紙を作り続けています。
和紙は木の皮から作られます。
およそ半日かけて皮を煮詰め、不純物を溶かします。
かつては、煮るための燃料に皮を剥いだ木の残りを使い、なにひとつ無駄にしませんでした。
冬に漉いた和紙は「寒漉きの紙」と呼ばれ冷たい水であればあるほど、不純物となる雑菌が減り、美しい和紙が仕上がると言います。
きれいな水を使いながらちりとりを終えた後、繊維は細かくほぐされます。
さらに、ネリとよばれる粘液を加え、混ぜ合わせていきます。
そうして、ようやく紙すきが始まるのです。
職人さんたちが漉いているのは、六八版と呼ばれる幅1.8メートルと2.4メートルの大きな和紙。これほど大きな手漉き和紙を作れるのは日本に数件しかありません。
紙を目的の厚さに漉きあげるのは、長い年月で培った目で見た感覚だと言います。
この工房で日本画用の大きな和紙が作られるようになったのには理由がありました。
祖父にあたる初代岩野平三郎が日本画家の横山大観の要望により、当時世界最大の手漉き和紙を漉いたのです。
漉き上がった和紙に傷を付けないよう水をかけながら丁寧にはがしていきます。
和紙は、いちょうの板の上に貼り付け1週間かけ和紙へと生まれ変わるのです。
京都、西陣にある日本で唯一の竹紙(たけがみ)専門店、「テラ」
竹紙にしか出せない素朴な味わい・・・オーナーの小林ありさんは、10数年前から竹紙を作り続けています。
竹が紙の材料になるまでには、気の遠くなるような時間がかかります。
そして、竹紙をすくのは、一回勝負。
一気に漉くことで、繊維が生む偶然性を楽しむのです。
竹の種類によって、さまざまな表情をした個性的な紙が生まれます。
一期一会のような竹紙作り。
どれ一つとして同じものはなく、自然のやさしいぬくもりがそっと伝わってきます。
京都洛北(らくほく)屈指の名刹(めいさつ)、曼殊院門跡(まんしゅいんもんぜき)
最澄によって、創建されたお寺で、門跡とは、皇室一門の方々が住職であったことを意味します。
ここに、日本最古のものとされる、ある和紙があります。
襖に貼られた唐紙(からかみ)。
自然をモチーフにした文様が施された、ふすま専用の和紙、それが唐紙です。
この寺院の唐紙は、300年以上前のものだそう・・・
かつては、紙の町としても栄えた京都。
唐長(からちょう)は380年の歴史を持つ唐紙専門店。
ホウノキというやわらかい木の板に、美しい文様(もんよう)を彫り込んだ版木(はんぎ)は、いわば印刷版。
650種類以上が代々受け継がれ、今も現役で使われています。
版木の大きさは縦30センチ、横45センチ。
12枚の和紙に文様を刷り、つなぎ合わせて一枚の襖にします。
代々変わらないのはその制作方法も同じ、「ふるい」と呼ばれる道具の上に顔料を塗り、版木にまんべんなくのせていきます。
そして和紙を版木に乗せ手のひらでこすり、文様を写していくのです。
千田さんはそんな唐紙の魅力をゆっくりと自然な形で時代に適応させていきたいと言います。
そしてそこには唐紙の美しさを支える強い和紙の存在があるのです。
伝統的な和紙の世界に独自の発想と新しい表現で挑み、注目を集める女性がいます。和紙デザイナーの堀木エリ子さん。
海外からも注目を集めフランスのクリスタルブランド バカラとシャンデリアをコラボレーション。
和紙の魅力を世界に訴えかけました。
手漉き和紙職人の伝統に魅せられた堀木さんは和紙の世界に飛び込みやがて独自の革新的な技術を生み出していきます。
堀木さんがデザインする和紙。
それは、未来に適える和紙の新しい姿なのかもしれません。
群馬県吉岡町(よしおかまち)。
日本で3軒しかない国産の線香花火メーカーのひとつ、「やまと花火」。
江戸時代に生まれた日本独自の文化、線香花火もいまや国産は0.1%にも満たないのだとか。
代表を務める花火師の斎藤公子(きみこ)さんが純国産の線香花火にこだわったのは、40年前に聞いたお客さんの一言でした。
斎藤さんは全国各地を駆け回り線香花火に適う和紙を探し、自ら和紙作りにまで挑戦したそうです。
全てに適う和紙は人間国宝による最高級のものでした。
持ち手部分には天然の草木染めでやさしい色を施します。
京都にただ一軒残る、和傘製造元「日吉屋」。
100以上もの工程を経て作られる和傘。職人の数は減る一方です。
和傘は全てが自然素材で出来ています。
使うのりも植物性のでんぷんのり。
軽くて加工しやすい竹と和紙の丈夫さを巧みに活かしているのです。
和傘が雨に適う理由。それは油。
油も植物性の亜麻仁油(あまにゆ)。
この油が水をはじくことで、雨に「適える」紙の雨具、和傘が誕生しました。
かつて和傘には、実用に適う耐水性と、ファッションアイコンとして適う美しさの、両方が求められていました。
その2つの伝統が、現代にも適えられようとしています。
和傘作りの技を活かし耕太郎さんが生み出した、斬新なデザイン・・・。
和紙からすける優しい光と、竹骨の織り成す幾何学模様の美しさ・・・それは、伝統の技術が現代に適えた新しい価値。
何度も修理して使える傘のように、切り捨てずに大切にしたい、いにしえから伝わる日本人の知恵と技術。
わたしたちは、いつから「使い捨て」に慣れてしまったのでしょう。
やまと花火
住所:群馬県北群馬郡吉岡町小倉155 |
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京和傘 日吉屋
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竹紙竹筆 専門店 テラ
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きりえ 辻恵子
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岩野平三郎製紙所
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