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2011年6月10日・24日放送 「享ける×京町家」
京都。「新しいもの」と「古いもの」が入り交じりながら・・・いくつもの「時」が 折り重なって静かに流れている街。
そんな古都の 独特な景色の主役が・・・「京町家」。
木と、土と、藁で作られた家は、光、そして、風を巧みに招き入れながら、そこに暮らす人々の生涯を、何百年にもわたって見守り続けてきました。
京町家の原型は、1200年ほど前に作られたといわれています。
古い家を手入れしながら、使えるところは残し、一方で、新しい時代の知恵を加えて次の世代へと受け継ぐ。
それは、まさに理想的なエコスタイルといえるかもしれません。
「享ける」。
先人の知恵と、自然の恩恵を余すことなく取り込むための工夫。
大切なのは、「家に暮らす」のではなく、「家と暮らす」という考え方。
京都市内にある明治時代に建てられた、典型的な作りの京町家。
かつて白生地問屋を営んでいたという無名舎・吉田邸です。
玄関を上がった正面の障子のむこうに現れるのは・・・「坪庭」。
限られた土地を美しく利用した京町家の象徴的なスペースです。
坪庭は、単なる和みのスペースではありません。
家の中に「自然」を取り込むために欠かせない、大切な『仕掛け』なのだといいます。
向こうにあるのが『座敷庭』。これが、『坪庭』と対になってこの家に、「大きな効果」をもたらします。
外と内との境界線をあいまいにすることで自然のチカラを採り込む。
これこそが、京町家の神髄なのです。
現代の家と京町家との大きな違い。
それは、外観や間取りだけでなく京町家を使う人々の「考え方」にあるのかもしれません。
「帯屋捨松」は江戸・安政年間に創業した帯屋さん。
かつてここにあった工場は移転しましたが、会社のオフィスは残っています。
問屋さんとの商談も京町家ならではの雰囲気を生かし、社長の木村さんらが、ここで行っているのだとか。
織物屋さんらしく、格子の形も昔のままです。
オフィススペースを奥に入ると、そこが玄関になっていました。
手間も暇もかかってしまう京町家。
それでも木村さんはできるだけ古いものを残していこうと考えています。
かつて ここに住んだ人とのつながりを感じるという木村さん。
今、古い日本家屋に住んでいるトンダさんも同じつながりを感じています。
古い京町家を現代のニーズに合わせて残そうとする人もいます。
ニューヨークから京都に移り住んだ建築家、ジェフリー・ムーサスさんのオフィス。
「京町家には、1200年にわたる様々な人の知恵が受け継がれている」というジェフリーさん。
古の知恵を大切にしながら、これまでたくさんの京町家の改修を手がけてきました。
外観には古い木材をそのまま残し家全体の雰囲気を大切にしています。
中に入ると、目を引くのがガラスに囲まれた明るい庭。
このスペース、以前はトイレでした。
それが、ジェフリーさんのアイディアで部屋に光をたっぷり取り込める小さな坪庭に、生まれ変わったのです。
ところで京町家の改修を担うのは、建築家や大工さんだけではありません。
他に何人もの、専門の知識を持ったプロが携わっています。
たとえば、このトイレの扉。
これは「建具」と呼ばれていて、かつて、他の町家で使われていたものに手を加え、しつらえ直したもの。
ガラス戸や障子も含めて、この家全体でおよそ90枚の建具が使われています。
そうした建具を一手に扱っているお店があります。
店先に所狭しと並べられている古い建具。
これらは、二代目の井川さんがオークションで競り落としたり、直接解体現場から譲り受けてきたものです。
もちろん、すべてが中古。
別の場所、別の時代の建具たちがお互い溶け合い新たな「ひとつの家」に生まれ変わるのです。
ジェフリーさんには畳にも強いこだわりがあります。
馴染みの畳屋さんに、今は作るのが難しくなった100%ワラを使った畳を注文しています。
さらに、畳のワラは、寿命がきてもほぐせば様々な形で、再利用できます。
そして、万一捨てることになってもゴミにはならなかったのです。
ジェフリーさんの畳へのこだわりも、自然の力を享ける京町家のすばらしさを知っているからなのです・・・。
京町家の屋根を飾る瓦もまた、エコを象徴するアイテムです。
瓦の原料は土。
畳と同じく、寿命がきても土に還るだけでゴミになることはありません。
中には、敢えて古い瓦を使いたがる人もいるのだとかそうした注文に応えるため、武本さんはたくさんの古い瓦をストックしています。
時には、古い瓦を焼き直すことで寿命を延ばすこともあるそうです。
世代を超えた人々の知恵が詰まった京町家。
積み重ねてきた伝統が、町家の未来を創ります。
京都の町を歩いていると京町家が改修されているのを見かけることがあります。
京町家は、直されることによって生まれ変わっていくもの。
この家も、初めて建てられてから幾度か改修を重ねてきました。
次に住む人も決まり、今、また新たな町家に生まれ変わろうとしています。
古いものを残しながら、新しい知恵を採り込みその時代に合った工夫を加える。
そうして、次の世代へ受け継がれていく家になるのです。
京町家の特徴は、それぞれの「部分」だけでも残していけるということ。
柱も、壁も、使えなくなったところにだけ新しいものを補います。
新しい部分も、時間が経つうちに、少しずつ建物の中に馴染んでいきます。
ゴミにならない家を未来に残す。
それが、京町家に関わる大工の使命だと、木村さんは考えています。
100年でも、200年でも繰り返し使える素材。
京町家はそんな材料から作られた、自然のサイクルの中に存在する家なのです。
京町家を愛する、たくさんの人たち。
彼らはみな、先人を敬い、自然との調和を考え、何かを未来に残そうとしていました。
1200年の時を超えて、静かに佇む京町家にこめられた知恵は今、私たちが抱える様々な問題をのりこえるためのヒントを、そっと教えてくれるかもしれません。
無名舎 京都生活工藝館
住所:京都府京都市中京区新町通六角下ル |
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町家倶楽部
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帯屋捨松
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東山堂
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