建物遺産~重要文化財を訪ねて~
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琴ノ浦温山荘
明治21年(1888)に日本で初めて動力伝動用革ベルトを製作し、その後、世界有数のベルトメーカーとなった新田帯革製作所(現・ニッタ株式会社)の創業者・新田長次郎の別荘庭園として造られた。海から水を引き込み、潮の干満に応じて水位が上下する潮入りの池泉を配した庭園内に、各建物を配置している。主屋は、東京帝大建築学科を卒業し、大林組設計技師、新田帯革製作所嘱託などを務めた木子七郎の設計。接客用の主座敷部は東西の庭園を鑑賞するための開放的な室内空間をもち、座敷飾りや彫刻欄間などに技巧的な意匠がみられる。庭園の周囲には、茶室、浜座敷などを配している。同郷の秋山好古も度々訪れ、この浜座敷で盃を酌み交わすこともあったと聞く。「温山荘」とは新田長次郎の雅号に由来し、交流のあった海軍大将・東郷平八郎が命名した。独特な構成の庭園と一体的に建設された別荘建築・琴ノ浦温山荘は、優れた意匠をもち、当時最新の建築資材であったベニヤ板(良材を薄く貼り合わせた合板)の使用など、先駆的な技術や建材を積極的に用いている点において高い価値が認められる。