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2013年10月18日・11月22日放送
「添う×高千穂」
古くから神話の舞台、神話のふるさと…と呼ばれてきた高千穂。宮崎県の北端、熊本・大分と境を接するこの地は幻想的な光景の宝庫です。こうした絶景には神様たちの物語が秘められています。かの有名なイザナギとイザナミが国作りを始めた場所…と云われているのがオノコロ島。そしてアマテラスオオミカミが天の岩屋に隠れてしまったとき、他の神様たちがどうしようか…と集まって相談したという天安河原。太陽を司る女神アマテラスは、乱暴者の弟スサノオの振る舞いに怒って岩屋の中に隠れてしまいます。闇に包まれた世界をなんとかしようと他の神様たちは知恵を絞りました。そこで岩屋の前で踊りを舞い始めたのはアメノウズメ。肌も顕わに乱舞するアメノウズメに神様たちは大喝采を送ります。騒ぎを気にかけたアマテラスが岩屋の扉を少しだけ開けたとき、チカラの神様タヂカラオが待ってました…と、その扉を開け放ってしまうのです。おかげで世界に光が戻りました。
続いて参詣したのはその名も「天の岩戸神社」。ご神体はなんと天の岩戸そのもの…本殿裏手に祀られています。拝観するにはお祓いを受けなければなりません。神聖な上にも神聖なご神体。撮影は固く禁じられています。高千穂には実に250社にものぼる神社があります。中でも主要な88社の総鎮守が高千穂神社。高千穂神社の本殿は国が指定する重要文化財。本殿奥には神武天皇の兄にあたる高千穂神社のご祭神がいらっしゃいます。稲作を司る神様ミケヌノミコトです。足下に組み敷いている鬼八は農作物に害を及ぼす霜の神…例年の豊作を守るために悪い神さまを退治している姿です。
ここ高千穂神社では物語の一部を神楽という形で毎日神さまに奉納しています。現れたのは力持ちの神さまタヂカラオ…そしてこちらは天岩屋の前で舞ったアメノウズメ…続いて演じられるのはイザナギ、イザナミ夫婦が国を作る場面です。酔っぱらった神さまはちょっとユーモラス。神さまに抱きつかれると良縁に恵まれるそうですよ。神楽には五穀豊穣や夫婦円満への思いが託されているのです。
秋を迎えた高千穂…。風になびく棚田の稲穂になんだか心が癒されるような気がします。
高千穂という地名はこの稲穂に由来するそうです。アマテラスの孫ニニギはかけがえのない糧としてこの大地に稲穂をもたらしました。千の稲穂だから、高千穂…。あらゆる自然の営みが神さまの物語と分かちがたく結びついています。そしてもちろん人々の暮らしも…。
集落の朝…小学生の麦ちゃんの一日は神さまへのお参りから始まります。小学校に上がって以来毎朝のお参りを欠かしたことはありません。神棚にも仏壇にも…。高千穂の集落ではこれが当たり前の光景です。この国を作った神様たちの物語も麦ちゃんはちゃんと知っています。(放送では物語の全てを話しています。)高千穂の集落の中でもとりわけ古くからのしきたりに厳格なのが、三田井地区…。ここにも庚申塚がありました。長老の一人である甲斐さんのお宅には集落のお大師様も祀られていました。あらゆるところに神様がいらっしゃるのでとても忙しいのです。
甲斐さんのお宅を拝見させて頂きました。室内には、立派な仏壇と大きな神棚が隣り合わせています。しめ縄にご注目。垂れ下がるワラが左右対称ではありません。右から天神七代(7本)、地神五代(5本)。左は、ニニギなどのオミヤ三代(3本)。一般のしめ縄と比べると高千穂は独特なのです。9月の声を聞くと町内の各集落でそれぞれに神楽の稽古が始まります。手にしているのは先端から3つ、5つ、7つの鈴をつけた神楽鈴…やっぱりこの数字です。下川登の集落には小学校3年生の踊り手が2人いました。夜神楽に出るのは今年で2度目…。神様たちを地上に呼び降ろす鎮守の舞は1時間にも及ぶ長丁場。マニュアルなどない舞は全てが口伝です。後継者不足で一時は途絶えた下川登の夜神楽ですが今、幼い世代にもこうして受け継がれようとしています。
日本最古の歴史書と云われる古事記は神々がいた天界を高天原と呼んでいます。雲海が広がる高千穂はあたかも高天原から見下ろした下界のよう。例年11月下旬…高千穂ではくじ引きなどで決められた家の庭に神様を迎える玄関が作られます。集落それぞれに総出で行われる夜神楽の準備…。神楽の舞台は神様の庭…神庭と呼ばれ、周囲がしめ縄と和紙の切り絵で飾られます。天井に作られた天蓋は高天原。こうして整った神庭は女人禁制が守られます。
当日…神事を済ませた神楽の舞い手や演奏の人々は神様を乗せた神輿とともに集落を巡行し、神庭を目指すのです。しかし神楽の面を制作する工房はもはや高千穂に数えるほど。千年続く夜神楽を彩ってきた神楽面…この地では神楽面そのものが神様として大切に扱われます。ここ高千穂は神話のふるさとであると同時に神楽の里でもありました。
次に訪ねたのは天の岩戸神社で神職を勤める佐藤さんのお宅。こちらにも代々守られてきた神楽面があります。高千穂で最も古い神楽面。いまでも夜神楽で使われているその面を拝見できました。神様である面は「おもてさま」と呼ばれ敬われています。11月の本番を前に特別に岩戸地区の夜神楽の一部を再現して頂きました。大切な荒神様…面を運ぶことが許されているのは佐藤さんただ一人です。舞い手は神楽面の彫り師、工藤さん…。この「おもてさま」をつけられるのは舞の達人でもある工藤さんだけだそうです。入鬼神の舞…入鬼神は神話に登場するタケミカズチ…雷神であり剣の神様でもあります。手にしているのは耕作棒を表した杖です。高千穂の集落では11月の下旬になるとそれぞれに文字通り夜を徹して朝までこうした夜神楽が行われます。舞の多くは物語を演じると云うよりもその動きを楽しむモノ。舞い手たちは年に一度の夜神楽に精魂を傾けると云います。集まった観客たちをもてなすのが神楽料理…昔はこの料理作りも男だけで賄ったそうです。いずれも高千穂で採れた食材を使った素朴な料理ばかり。こうした料理を口にしながら夜神楽を楽しむそうです。人々が持ち寄った手料理に舌鼓を打ち、舞い手たちの一挙一動に拍手喝采を送る…千年の昔から変わらない習わしです。祭りに込められているのは五穀豊穣への祈り。夜神楽が終われば新たな1年の始まりです。
天岩戸神社
〒882-1621 |
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天安河原
〒882-1621 |
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高千穂神社
〒882-1101 |
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天岩戸木彫・神楽面(工藤正任さん)
〒882-1621 |
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神楽の館
〒882-1621 |
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向山神社
〒883-1603 |