SHISEIDO presents エコの作法
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2012年9月28日・2013年12月13日
「日本庭園×戴く」

水や石、草木など自然を崇拝してきた日本人はそれらの要素を使って庭を作ることで、
自然の本質に近づこうとしました。
今回は、自然からの尊い戴きもの日本の庭園を訪ねます。

庭はもともと何かを行うための「広場」という意味でした。
そこに、自然を崇拝する文化から草木や石、水を配し、
自然に見立て鑑賞する空間となっていきました。
日本人にとっての庭は「自然の縮図」。
その縮小の仕方や自然への見立て方は時代とともに変化していきます。
中央に池や河などの、水の景観を取り入れた庭園「池泉庭園」。
日本庭園の多くがこの池泉庭園です。
広大な敷地に、自然の姿そのままに再現しようとした貴族の時代に生まれた庭です。
武士の時代、禅宗の影響とともに発展したのが水を一切使わない「枯山水」です。
有名なのが室町時代の禅寺・大徳寺大仙院の庭園。
荒々しい岩で表現された風景は禅本来の修行の場である深山幽谷を表します。
水無きところに水を見る。無から有を生む禅の思想が枯山水の庭を生みました。

庭の歴史は、その鑑賞方法とも深く関わっています。 縁に座って家の中の小さな庭を眺めるようになる以前、貴族の屋敷の広大な池泉庭園では舟に乗って庭を眺める周遊式の鑑賞法がとられていました。自然を身近で堪能するため、敷地の中に、舟をこぎ出せる大きな池まで作ってしまう。 貴族の時代の庭は、そんな遊興のための庭でした。 武士の時代。池泉庭園の鑑賞法は、歩いて廻る「回遊式」に変わります。 禅の影響を受けた武士たちは、庭を、思索にふけりながら歩く場所と考えました。一方で、旅という概念が広まり始めた江戸時代、歩いてまわる回遊式庭園には、各地の景勝地の景観などが取り入れられ、旅の娯楽性もそなえるようになります。

島根県に、フランスのミシュランが三ツ星をつけ、
アメリカの日本庭園専門誌で9年連続日本一に輝く庭がある、足立美術館。
館内でまず目に飛び込んで来るのは主庭、枯山水庭です。
およそ五万坪の広大な敷地に広がる山水画の世界。
ここを訪れる人がまず最初に目を奪われるもの。それが、この日本庭園という絵画なのです。
全国各地から集められた選りすぐりの庭石や樹木が、
洗練された自然の風景を形作ります。その遠く見えるのは、
かつて毛利元就が戦勝を祈願したという勝山。
雄大な山並みを借景に戴くことで、枯山水の日本絵画は、さらに神々しさを増します。
この美術館設立の裏には、情熱と執念でこの庭を作り上げた創設者、
足立全康氏。横山大観の作品に魅せられ、その絵を手に入れようと決意した全康氏は71歳にして、
120点を超える大観作品を所蔵する美術館を開くに至りました。
そして、そもそも庭いじりが好きだった全康氏は、
日本の自然の風景を描いた横山大観の絵をモチーフに美しい日本庭園を造ることを思い立ったのです。
そんな日本庭園という美術品の美しさを保つ秘訣は日々の手入れ。
庭師だけでなく事務や喫茶店のスタッフなど、美術館の全ての人で、毎朝1時間、庭園の掃除をしています。

日本独特の庭の文化を挙げると、自然のすべてを庭と考える「借景」。
無の中に有を見いだし、無限の広がりを感じる「枯山水」。
そしてもうひとつ。を挙げるならば、もてなしの文化・茶の湯の庭「露地」。
露地とは、茶室へ向かう道行き。
神聖な空間とされる茶室につながる露地は、俗世を断ち切り、
汚れをすすぐ場でもあります。
茶室に続く通り道には、いくつかの景物が置かれます。
夜の茶会の時に灯を点す石燈籠。そして、蹲踞で手や口をすすぎ、
穢れを落として、茶室に向かいます。客を俗世から別世界に誘う道中は奥山の道を行く詫びの風情。
それは自然の素材を使って、亭主が工夫をこらしたもてなしの庭でもあります。

露地が育んだ庭の文化はやがて、京都の町家に取り入れられます。
それが坪庭です。建物が密集する町中で家の真ん中に小さく切り取られた坪庭は、
もともとは光を採り入れ、風通しを良くする必要から生まれました。
そんな必要から生まれた坪庭を、京都の人々は、露地を模して美しくしつらえました。
大正時代創業の老舗おもてなしの宿として知られる炭屋旅館。
建物の中心には坪庭が置かれていますほの暗い部屋の奥に浮かび上がる坪庭。
街の喧噪もほとんど聞こえてきません。四方を囲われた狭い空間では鮮やかな花よりも、
涼しげな草や苔の緑が好まれます。小さな石灯籠や蹲踞、飛石も配された露地の縮小版のような庭です。
外部と隔てられ、建物の内側にぽっかりと切り取られた坪庭は、
俗世から切り離された露地のように私たちを別世界に連れてゆきます。

「盆栽」。たった一枚の盆上の小さな松に巨大な老木を思い、
ふと、海沿いの松原を感じる。
見立てるという日本の盆栽の文化は、今では国境を越えて人々の共感を集めています。
そんな盆栽を心の庭園として、共に暮らす人がグラフィックデザイナー、中村和人さん。
盆栽をイメージ通りに飾るため、自宅を建て替えました。
目指したのは、生活空間の至る所から盆栽が眺められる家。
家の中には150もの盆栽があり、その時々で、気に入ったものを部屋に飾っています。
どんなところにいても自然に寄り添って暮らしたい。
そんな思いが狭い場所でも楽しめる露地や坪庭などの小さな庭を生みました。
盆栽はその究極の形。私たちはこんな小さな木にも大自然の風景を感じることができるのです。

自然の風景に畏敬の念を抱き、
その美しさや精神性を自分たちの手で再現しようとした私たちは自然と対話し、
自然にゆだねることの大切さも学んできました。
歴史とともに形を変えてきた日本の庭園。
庭の植栽や石のひとつひとつからその時々の日本人の生き方が見えてきます。
それは、私たち日本人が常に四季折々の自然と呼吸し合ってきたからなのかもしれません。

足立美術館

住所:島根県安来市古川町320 
TEL:0854-28-7111
開館時間:4~9月:午前9時~午後5時30分
10~3月:午前9時時~午後5時
年中無休
http://www.adachi-museum.or.jp

安曇野ちひろ美術館

住所:長野県北安曇郡松川村西原3358-24
TEL:0261-62-0777
開館期間:3月1日~11月30日
開館時間:9:00~17:00
休館日:第2・4水曜日(祝休日は開館、翌平日休館)
入館料:大人800円、高校生以下無料
http://www.chihiro.jp/azumino/

表千家 不審菴

住所:京都市上京区小川通寺之内上る本法寺前町597
TEL:075-432-2195
http://www.omotesenke.jp

京都 炭屋旅館

京都市中京区麩屋町三条下ル 
TEL:075-221-2188 
http://www2.odn.ne.jp/sumiya/

庭師・北山安夫さん

北山造園 
TEL:075-463-4945

エバレット・ブラウン


<プロフィール>
一九五九年、アメリカ、ワシントン生まれ。epa通信社日本支局長。「Kyoto Journal」寄稿編集者。十四歳でプロの写真家の道に入り、十六歳でユージン・スミス氏との出会いをきっかけにフォト・ジャーナリストになることを決心。アメリカで文化人類学、日本、中国で代替医学などの勉強を経て世界の六大陸五十カ国以上を旅する。一九八八年から日本定住。タイム、ニューズウィーク、ニューヨーク・タイムズ、ロンドン・タイムズ、ル・モンド紙など国内外の主要なメディアで定期的に作品を発表している。ドイツのGEO誌で「ピクチャー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたほか、世界的な写真展「M.I.L.K. Moments of Intimacy, Laughter & Kinship」で入賞。作品展の開催も多数。
妻でマクロビオティック研究家の中島デコ氏と共に、千葉県いすみ市に田畑付き古民家スペース「ブラウンズフィールド」を設立。

ブラウンズフィールド
http://www.brownsfield-jp.com/