SHISEIDO presents エコの作法
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2012年3月2日・16日放送 「愛でる×松」

その「美しさ」は日本の風景に、これ以上ないほど心地よく溶け込んでいます。
そして「内に秘められた力」は日本の文化や暮らしを長きに渡って支えてきました。
「松」。
春夏秋冬、様々な表情を見せる自然の中で、変わることなく青々と葉を茂らせる常緑樹。
樹齢千年を超えるものも多く、過酷な環境でも枯れないその強さから、松は「若さ」や「不老長寿」の象徴とされて来ました。
愛でる×松。
日本の景観を生み出し、生活や伝統を守ってきた「強さ」。
そして、日本人の心を育んできた「美しさ」。
この国になくてはならない植物「松」。
今夜は、その秘められた物語をひも解きます。

そもそも、松という名前の由来をご存じですか?
一説には、神様が天から降るのを「待つ」ための木だったから、といわれています。
600年の歴史を持ち、世界最古の舞台芸術とされる「能」。
その物語に登場する主人公のほとんどは幽霊。
そうした、この世のものではない存在によって繰り広げられる能の舞台には……必ず一本の老松(おいまつ)が描かれています。
東京・杉並区にある神明宮。
江戸時代につくられた神社です。
神事は伝統を重んじて厳粛に行われますが…
普段は人々の憩いの場であって欲しいという思いから二年前、能舞台が設置されました。
舞台には一本の老い松が悠然と聳えています。
舞台に老い松を「植えた」とおっしゃる作者を訪ねました。
日本画家・瀧川虹風(たきがわこうふう)さん。40年に渡って「松」を描き続けています。
松が描かれた能舞台。
奥の壁は「鏡板(かがみいた)」と呼ばれ、舞台の音を、客席に弾く役割があると同時に、能の世界観を演出する重要な装飾なのです。
松の多くは天然の岩から作られた「岩絵の具」で描かれます。
中でも、松の緑色を表現する緑青といわれる岩絵の具は、採れる量が少なく貴重なもの。
天然の岩から作られた絵の具は、色あせないと言います。
能舞台の松は、何百年経っても美しい緑なのです。

神がそこに降臨するため…
そして、四季折々の演目を違和感なく飾るため…
能舞台に描かれるのは、必然的に「松」しかなったのです。
古い物では数百年前の歴史を持つ能舞台。
その間、色あせることなく演じる人と観客を、ずっと見続けてきた舞台の松。
松は、日本人の心象風景に欠かせないものだったのです。

奈良県、東大寺。
この寺には、1160年に渡って一度も絶える事なく続いている、法会があります。
それが毎年3月1日から14日まで行われる、修二会(しゅにえ)。
「お水取り」とも言われる、春を告げる儀式です。
お水取りに欠かせないのが松明の明かり。
明るい炎は、松から放たれたもの。
だから「たいまつ」は、漢字で「松の明かり」と書くのです。

法会の松明の準備が始まるのは毎年1月。
童子と呼ばれる人々によって、昔から手作りで行われます。
柔らかく、心和む色味を帯びる松の明かりは松の樹脂、松脂が燃える事で生まれます。
修二会に使われる松明は、当日使う分だけ作るのが、厳しい決まり。
新人の童子は、一度の練習もなしで本番にいどみます。

この松明には五年ほど、自然に乾燥させた松を使います。
樹脂である松脂だけを燃えやすく残し、木そのものは乾燥させる為の知恵。
提灯が出来る以前、松は長い間、闇を照らしてくれる貴重な明かりだったのです。

まるで1200前から、「今」を照らすかのような炎。
松明の明かりを見るとき……私たち日本人の心には、特別な思いが生まれるのかも知れません。

松の美しさに魅せられた若き写真家がいます。
大和田良さん。国内外から注目される大和田さんの心を捉えたのが「松」。
大和田さんの作品 「千代の松」。
幾つかの季節や天候の中で撮影し、それらを切り貼りして、一本の木の様々な魅力を表現したもの。
そんな、大和田さんの心惹かれた「松の盆栽」は…
日本人の美意識の、ひとつの到達点とも言えるものです。

さいたま市にある盆栽園を訪ねました。
人が手を加える造形品でありながらも、呼吸と成長を続ける生き物、盆栽。
盆栽の中で主流とされる木は「松」です。
そしてその魅力は大きく2つあります。
ひとつは、自分の思う形に、木が成長する様を楽しむこと。
もうひとつの魅力は、心和む自然の風景を傍に置けること。
自然と人との共同作業が生む芸術。
目指すは、過酷な環境に耐えながら育った松の美しさ。
いわば、日本の原風景を傍に置くのが、理想の盆栽なのです。
人間の寿命より、遥かに長く生き続ける盆栽。
人は世代を超えて、松を愛し、育て続けます。

東京 代々木。
築50年の日本家屋を改装した、モダンなアトリエ兼ショップ。
ここを拠点に活動するのが…盆栽作家の細村武義さんです。
伝統を重んじながらも、自由な感性を大切にするのが、細村さんの作品。
おもわず「かわいい」と言いたくなるような、なんともステキな盆栽たち。

人間の寿命を、遥かに超えて生きる盆栽の松。
細村さんは「盆栽は預かりもの」だと言います。
次の世代に渡す為に、自分に出来る事をする。
それが、今の世代の役目。
小さな盆栽を受け継ぐために……
難しい作業や、大掛かりな道具は必要ありません。
毎日こつこつと水をやり、目をかける。それを長く続ける事。
それは私たちの「預かりもの」。
美しい形で、次の世代に渡さなければいけないものです。

日本人が松を愛でるのは「松に守られて来た」歴史があるからです。
各地に見られる、松の防風林。
潮風や砂から暮らしを守る、島国に不可欠なもの。
京都の北部。
山々に囲まれた地形から、冬は雪深い気候となる、宮津市。
ここに日本三景に数えられる景勝地「天橋立」があります。
大小8000本もの松が織りなすこの景観は、龍が天に舞い上がる様に見えるため、「飛龍観(ひりゅうかん)」と呼ばれます。
そんな日本三景、天の橋立の松が…
2004年の10月20日、危機にさらされました。
台風で膨大な数の松が倒木したのです。
なかには樹齢400年を超える松も。
失われかけた松を救う為に、動いた人々がいます。
天橋立で旅館業を営む、幾世淳紀さん。
台風を機に天橋立の景色を守る団体を設立。
倒れた松を、全て引き取りました。

8年前、台風で倒れた木が残されていました。
樹齢およそ400年。松との共生を忘れたがゆえ、倒れた木。
幾世さんはその事実を忘れない様にこのまま残しておくことを、行政に願い出たのです。

松は倒れても生きていました。
幹の折れた松の根を土に植えたところ…
およそ5年後、小さな新しい松が誕生したのです。
人が手を入れてこそ、自然が生き生きする事もあります。
この小さいながらも力強い松の木は…
天橋立で、人と松とがともに生きている証。
潮風や自然災害から人間を守って来た松は、失われかけた時、人々の手によって守られ、再び人間を守りはじめる……。
人と松が、それぞれの命を支え合っていました。

常に青々と葉を茂らせる「松」の力を…
日本人は様々な形で敬い、その美しさを芸術にまで高めてきました。
そして松は、私たち人間の営みが、次の世代に正しく受け継がれているかどうか、変わらぬ姿で、じっと見つめ続けています。

神明宮

住所:東京都港区阿佐ヶ谷北1-25-5
http://shinmeiguu.com/

東大寺

住所:奈良市雑司町406-1
http://www.todaiji.or.jp/

蔓青園

住所:埼玉県さいたま市北区盆栽町285

隆龍

住所:渋谷区代々木4-20-10
電話:03-5304-2775
http://www.ryuryu.cc/

カミラ(Camilla)

<プロフィール>
スウェーデン出身。2006年来日。日本語を学ぶ傍らモデルとしての活動を開始する。2007年IntelCMでは戦国武士が金髪女性に変身する役で出演し、その力強い目元と演技が評判となる。また、2008年Tony Kaye(イギリスの映画監督)監督のナラカミーチェWebムービーでは体当たりで新鮮な演技を披露し、監督から絶賛のコメントを戴く。2010年日本テレビ連続ドラマ「日本人の知らない日本語」ではエレーン役を演じる。現在は映画、テレビ、CM、カタログ、雑誌などその北欧ルックスと個性的な演技力を活かし、モデル、俳優として様々な場面で精力的に活躍中。