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2012年2月3日・17日放送
2014年2月14日 放送
「醸す×麹」
麹。
それは目に見えない、自然の力。
しょうゆ、みそ、酒、みりん・・・日本の味の決め手は、すべて麹が醸し出したもの。
この国のスローフード、麹と日本人のお話です。
日本の食文化を豊かにする、麹。
その正体は、カビ。実はこれ、日本の気候風土でしか育たない特別な菌。
日本人は麹や、あらゆる微生物の力をかりて、発酵醸造の文化を築いてきたのです。
日本料理に欠かせない調味料「醤油」。
そこには麹が支える日本の味と、職人が育む伝統。
そして智慧が詰まっていました。
紀伊半島のほぼ中央に位置する、和歌山県、湯浅町(ゆあさちょう)。
ここに創業以来170年間に渡って、手作りの醤油を作り続ける蔵があります。
蔵の名は「角長(かどちょう)」。
かつては店の裏手にある堀から、醤油を積んだ船が江戸へ向かったそうです。
昔と変わらない方法で作られる醤油は、限られた量しか生産出来ない貴重品。
蒸した大豆と、煎った小麦を混ぜたものに、麹菌をまぶして繁殖させます。
十分に麹が繁殖したら塩水を混ぜ合わせ、仕込みが完了。
醤油の元と言われる、「もろみ」です。これを1年半から3年間かけて発酵させます。
麹の発酵に合わせ定期的に空気に触れさせる攪拌という作業。6月から7月の発酵の最盛期を経て、諸味は熟成して行きます。
こうして長い年月をかけ発酵させる事で、麹が大豆のタンパク質を分解し、アミノ酸を生みます。
それが、美味しく感じる旨味の成分。
手間ひまかけて作られる「旨味」という贅沢。
それは単なる味に留まらない「心の豊かさ」なのかもしれません。
東京・目黒にある一軒家のレストラン、「発酵食堂 豆種菌(まめたんきん)」。
ここである教室が注目を集めています。
毎日をより豊かに健やかに過ごしたい。
そう考える女性たちの間で、注目されているものがあります。
連日満員で、予約もとれないほど人気なのが、麹の料理教室。
日本の食文化の礎、麹をきちんと知りたい、そんな女性が増えているのです。
指導するのは、店長の伏木暢顕(ふしきのぶあき)さん。
麹人気の立役者の一人でもあります。
食材を全く別のものにかえてしまう、不思議な麹の力。
独学で麹について学ぶうち、その奥深さにのめりこんでいきました。
熊野古道のおひざもと、和歌山県、新宮(しんぐう)市。
山深いこの地で、かつてお米はとても貴重な物でした。
そして、秋にたくさん採れる秋刀魚は、冬を越すための貴重なたんぱく源でした。
その2つを使ってうまれた「なれずし」。
現代のお寿司の原型とも言われ、遥か弥生時代にはすでに誕生していたとも。
自然の力を借りた、ふるさとの味です。
「なれずし」は熟れた寿司と書くこともあります。
長い年月に渡ってお米と魚とを保存出来る発酵が生んだ料理。
その作り方は、1年間塩漬けにした秋刀魚に、やわらかく炊いたお米を詰めて、後は樽で眠らせるだけ。
発酵の過程で乳酸菌が多く含まれる「なれずし」。
胃腸に優しく、美肌効果も期待できるとか。
発酵がもたらす保存と言う知恵。
日本人は発酵という自然から学んだ方法で、自然からの恵みである食材を大切にして来たのです。
千葉県。利根川のほとり、香取郡。
創業300年以上の、寺田本家。
蔵ではたらくのは、6人の若き蔵人たち、みな、この蔵の酒造りにひかれて全国から集まってきました。
彼らがここにひきよせられたのは、失われた日本古来の酒造りをもう一度、今に甦らせるということ。
酒は手をかければかけるほど、美味しくなる。
目には見えないけれど、そこにいる。
微生物たちがちゃんと働くため蔵人は、ただただ その環境を整え続けます。
酒の一滴一滴を磨きあげるのは、蔵人たちの熱い思い。
小さな命の息吹を心の目と耳で感じて、酒をつくります。
目に見えない命を育てる蔵人たち。
その口から出てきたのは、自然への感謝と謙虚な言葉でした。
発酵の力は、時に人の有り様をも変えて行くのです。
麹や微生物たちは、発酵というこの上ない恵みを私たちにもたらしてくれました。
でもそれは、人間が作り出した物ではありません。
その自然の恵みに感謝し、謙虚に向き合う。
食卓から明日の暮らしを変える、ひとつのヒントです。
角長
住所:和歌山県有田郡湯浅町湯浅7 |
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発酵食堂 豆種菌
住所:東京都目黒区五本木1丁目6-3 |
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太田久助吟製
住所:和歌山県有田郡湯浅町大字湯浅15 |
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東宝茶屋
住所:和歌山県新宮市横町2-2-12 |
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寺田本家
住所:千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964 |
エバレット・ブラウン
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