ヨーロッパ路地裏紀行

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[ フィンランド ]  タルッカンプヤ通り ヘルシンキ






フィンランドの首都・ヘルシンキ。中心街周辺に広大な森がひろがる自然に恵まれた 都。中央駅からトラムで10分、市街の南にあるウッランリンナ地区。100年以上 前に建てられた古いアパートが残る人気の住宅地だ。第20回の舞台は、ブティックなどが連なるファッションストリートと交差するタルッカンプヤ通り。聖ヨハネ教会のそば、五叉路から坂の上の天文台へ東西にのびる路地だ。トラム10番の最終駅近くには 人気のセレクトショップやパン屋などがある。そしてヘルシンキでも類のない、風変わりな小さな店が集う。今回は仕事を宝に夢をおう二人の男の物語。

*レコード店オーナー エム・レヘトネンさん (65歳)

五叉路の一角にある「ディゲリウス」を40年営む。ジャズや民族音楽の廃盤や稀少レコードCDを中心におよそ2万枚取り揃える。マニアでは知らぬ者がいないヘルシンキの音楽の聖地ともいえる店だ。エムが青春を送ったのは60年代、マイルス・デイビスとレッド・ツェッペリンに衝撃をうけ音楽のとりことなった。23歳で店を始めてからは商売の浮き沈みも気にせず、趣味を仕事に続けてきた男だ。音楽配信がダウンロード、インターネット販売へと変っていくなかでエムを頼る客足は途絶えない。エムの数十年培ってきた知識、なんといっても音楽をこよなく愛する純粋な心と人柄が人々をひきつけてやまない。ディゲリウスに憧れ、子供の頃から通いつめミュージシャンや音楽関係の仕事についた常連客も多い。長年の音楽文化への貢献がたたえられ2003年に理想のヘルシンキを作った男に選ばれ、2012年にはヘルシンキジャズ貢献賞を受賞。日曜日も店で過ごし「店が我が家」と微笑む、エムの日常をおう。

*アンティークショップオーナー トーマス・ホルムベリさん(30歳)  

通りの坂道をあがったところにあるアンティークショップ「ヨータの世界」を営む。 誰もが驚く風変わりな店だ。時計やランプと一緒に、なんと60もの剥製が処狭しと飾られている。もともとは特殊メイクアップアーティストや舞台装飾の仕事をしている トーマス、一見雑然とした店内は彼の美意識で隅々まで工夫が凝らしてある。博物館の剥製のように野性味あふれるものではなくて、みなユーモラスで愛らしい人間味のある仕草をしている。カギをくわえた狐、帽子をかぶったビーバーなど、トーマスの作り出したメルヘンの世界に住むキャラクターなのだ。トーマスの剥製への情熱は、子供時代の体験から生まれたものだ。毎年夏600キロ離れた別荘で過ごし大自然の動物の美しさに憧れた。当時に美しい命も必ず終りがくる、死は自然なことであることも学んだという。だから生と死は二つで一つなのだと・・・トーマスは剥製に生き生きとした命の輝きを込めている。そして「ヨータの世界」は、じつは父トムの幼年時代の大切な思い出がつまっている。失業を繰り返し苦労したトムの心をなぐさめたのが、骨董品好きだったヨータおばさんの思い出だ。トーマスが好きで始めた小さな店が、いまや家族を結びつける宝になっているのだ。