ヨーロッパ路地裏紀行
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[ ベルリン ] ゾフィーエン通り
第13回の舞台はベルリン、ミッテ地区にあるゾフィーエン通り。
かつて、手工芸の店が数多く軒を連ねていた路地だ。
東ベルリンの時代を感じさせるファサードの奥に、居心地の良い中庭が広がっている。
手工芸の店が多い手仕事通りに生きる二人の女性の物語。
暮らしを救った故郷の民芸人形。息子に支えられて一人暮らし。
豪華なアパートで音楽財団を運営する独身女性。
中庭が心地よい路地裏の物語。
*民芸品店 経営 ヨハナ=グレーフ・ペッゾルトさん (67歳)
遠りの中程に、27年前から民芸品店を構えている。
商品は、ヨハナの故郷でもある、ザクセン州の山岳地帯・エルツ地方の玩具。およそ8000点の可愛らしい木工細工のおもちゃを販売しながら、かつての東ドイツが築いた伝統文化を守っていきたいと考えている。貧しい農家に生まれ、14歳から働き始めたヨハナは、東西統一による経済の激変で、それまでの商売もダメになり、連れ添った牧師の夫とも別れるハメになった。今の民芸品を売る商売は、幼い子どもを抱えながらも、女手ひとつで生き抜くために始めたことだった。すっかり大人になった子どもたちは、自慢できるかしこい人間に育ってくれた。
時々顔を見せる息子のカミロは、母親の自分に対して、思ったことをストレートにぶつけてくる。言い争いになることもしばしばだが、ヨハナは真剣に向き合ってくれる息子の言葉に、感謝の気持ちを抱いている。
*リゼロッテ・クラインさん (77歳)
通りから一歩奥に入った中庭。その上のアパートで暮らすしっかり者のおばあさん。22年前に早期退職し、新たな生き甲斐を探している最中、ベルリンへとやってきた。今は、それまでの蓄えと親の遺産もあって、悠々自適の老後を送っている。子どもの頃から好奇心旺盛で、戦後間もない頃、20歳そこそこでエジプトやフランスに冒険旅行に出かけた。
生来の外国好きから、EUの前身、ヨーロッパ経済共同体に勤め、通貨統合の準備やプレススピーカーとして寝る間も惜しんで働いた。だが、仕事第一のリゼロッテは、ついに家族を持つことはなかった。50を過ぎて、子どもの頃習ったピアノを再会し、一からレッスンし直してのめり込むようになる。そして、音楽への傾倒は、若手音楽家を育成する財団まで立ち上げる結果となった。リゼロッテの年を感じさせない勢力的な行動ぶりが、3人しかいなかった知り合いを数百人まで増やし、若者との友達付き合いまでに発展した。独り身の寂しさなど感じている暇はない、充実した日々を過ごしている。