ヨーロッパ路地裏紀行

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 [ ベルリン ]  ノーレンドルフ通り






第14回の舞台はベルリン、シェーネベルク地区にあるノーレンドルフ通り。 街路樹の木陰で子どもたちが遊び、大人が憩う、暮らしと密着した路地だ。 アパートの間にはところどころ、心地よく過ごせるカフェやショップが顔をのぞかせている。

路地裏で人気、家族経営の食堂。定番メニュー、生パスタはおふくろの味。 93歳現役画家。描くのは幼年時代の記憶。頑固でまっすぐな人生。 守り続けるのは、昔の思い出。

*レストラン経営 ティロ・ヘンゼさん (45歳)

通りに暮らしながら、1年半前からドイツ料理のレストランを営んでいる。妻と2人の娘が手伝っていることもあり、ティロたちと客が気軽に話せてくつろげる店になっている。料理は、自分が子どもの頃よく食べた、両親の故郷・南ドイツの郷土料理『シュペッツェル(生パスタ)』や「マウルタッシェン(ラビオリ)」を手作りにこだわって出している。安くて旨いと近所でも評判が高く、毎日食べにくる常連客もいる。ティロ夫妻には、店を手伝う娘2人の他にもう2人息子がおり、子どもたちが小さい頃、共働きの妻のブリギッテとともに子育てには苦労を重ねた。だが、「この範囲で」と決めた枠の中でノビノビと育てた子どもたちは、人の気持ちが分かる大人に成長してくれた。ティロは、バカンスが終わればもうひとつの仕事、料理学校の講師の仕事も始まる。二足のわらじは大変だが、バリエーションがある人生こそ自分の励みになると、笑顔で仕事を続けている。

*画家 ハンス=ヨアキム・シラーさん(93歳)

通りに自分の絵を展示するギャラリーを持つおじいさん。毎日手押し車を押しながら、近くにある自宅から通っている。86歳までベルリンの専門学校で庭のデザインを教え、現在は退職して、毎日絵を描く日々を送っている。描くのは、少年時代を過ごしたかつての故郷の風景。ハンスは、庭師をしていて忙しい両親に向き合ってもらなかった。その時の気持ちが今も忘れられなくて、あのとき眺めていた海の風景を描いている。第二次大戦では戦火に終われ、着の身着のままで妻とベルリンへやってきた。その後、好きな芸術の道を歩めたのも、孤独だった自分と向き合ってくれた、妻・エチェルがいてくれたからだ。ハンスは、絵を描く一方で、教えを乞うプロの画家にも指導している。人のために働けば必ず自分に返ってくる…。その一心で、老骨にむち打って絵心を伝えている。