ヨーロッパ路地裏紀行

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 [ ロンドン ]  ポートベロー通り/ノッティング・ヒル






第六回の舞台はロンドン、ノッティング・ヒル地区にあるポートベロー通り。古くからのマーケットと共に生きてきた人情溢れる路地だ。通りは普段の日も、ところどころに露店が並び、住民たちが通りで立ち話をする。

*裁縫用品店オーナー ヴィジ・ソードンさん(46歳)

ポートベロー通りで30年近く露店を出してきた女性がいる。ヴィジ・ソードン。
通り沿いには、自分が経営する裁縫用品店も持つ。店の名は、「誘惑の小道」。両親から引き継いだものだ。今は、パートナーと息子との三人暮らしだ。
平日は通り沿いの店に毎日出ているヴィジ。タッセル、組紐、生地など、色とりどりの商品で溢れかえった小さな店に、裁縫に夢を膨らませたお客たちがやってくる。ヴィジは、どんな人にも親身になって応対する。かつて、メイクアップアーチストとして制作の現場で働いたから、クリエイティブな話を弾ませるのが何よりもの楽しみだ。
時に、通りに出て店主仲間と情報交換をする。この通りの、人懐っこい人々を何より大切に思っている。通りの世話人として生きたい、そんなヴィジの日常に寄り添う。

*音楽家 アール・オーキンさん(65歳)

マーケットで毎週末、古いレコードを探す男性がいる。アール・オーキン。ポートベロー通りの家に引っ越してきて、もう50年以上になる。レコードコレクションは少年の頃から続く趣味。どれも1910年〜1930年代の古い78回転のレコードだ。音楽好きが高じて、アールは音楽家になった。
最愛の両親を見送り、独身のアールは、独り暮らし。もともと、家の中で音楽を聴いたり、作曲したり、演奏するのが好きだったから、一人暮らしは少し寂しい。でも、通りに出れば知った顔に出会うし、コンサートの仕事が入れば観客にも会えるから、いつも自分を忙しくするようにしている。そんな大人のペイソスを醸すアールだ。