ヨーロッパ路地裏紀行
バックナンバー
[ マドリード ] バルデリーバス通り
第六回の舞台はマドリード、パシフィコ地区にあるバルデリーバス通り。古くからのマドリードの住民が多く暮らす老舗の路地だ。通りの中心には地区のシンボルともいえる大きな教会。日曜のミサの時間になると、通りは人であふれかえる。
*主婦 フランシスカ・デへールさん(75歳)
バルデリーバス通りに40年近く暮らしている女性がいる。フランシスカ・デへール。産婆として病院で働きながら、この通りで二人の娘を育ててきた。夫は3年前に他界、今は一人暮らしだ。
平日は毎日習い事に出かけているフランシスカ。毎週水曜日は絵画教室だ。通りの脇の路地にある絵画教室にもう20年以上も通っている。3年前まで夫と一緒に通っていた。絵を描きながら、娘のこと、孫のこと、近所のこと、旅行のこと、色んな話をした。フランシスカにとって、ここは夫との思い出がつまった場所だ。
週末になると、フランシスカの家に家族が次々と集まってくる。長女と次女、そして孫たちに囲まれた昼食はフランシスカが何より楽しみにしている時間。家族を想い、家族と過ごす、そんなフランシスカの日常に寄り添う。
*公務員 フアン・リベロさん(58歳)
バルデリーバス通りに響くエンジン音。車と同じ大きさのハーレーにまたがっている男がいる。フアン・リベロ。8歳の頃にバルデリーバスに引っ越してきて、もう50年になる。そんなフアンのお気に入りの場所は通り沿いにある自分の家のベランダ。ここでタバコを吸いながら、通りを行き交う人々を眺めるのがフアンの日課だ。
子供の頃、学校から帰ると毎日のようにこの路地でサッカーをした。悪戯をして、近くにいた大人に怒られたこともあった。フアンはこの路地に育てられてきたのだ。そんなフアンも、今はもう58歳、バルデリーバス通りの兄貴のような存在だ。通りの沿いのバルからは、今日も常連客と話すフアンの笑い声が聞こえてくる。