世界の名画 ~美の迷宮への旅~
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ロシアが誇る美の殿堂
プーシキン美術館 モスクワに咲いた熱帯の花
ゴーガン作、「エイアハ・オヒパ(働くなかれ)」。熱帯の島の涼やかな小屋の中で、華やかな髪飾りを着けた男が煙草をくゆらし、ひとりの女が寄り添って座っています。ゆったりと流れる、南国の時間が感じられるようなこの絵は、ゴーガンが最も輝いていたタヒチ時代に描かれた作品です。
この絵が飾られているプーシキン美術館別館の一室は、ゴーガンの傑作で埋め尽くされています。何故、パリでもニューヨークでもなくモスクワに、ゴーガンの一大コレクションがあるのでしょうか?
実はそれらの作品の多くは、二十世紀屈指の絵画コレクターによってロシアにもたらされたものでした。彼の名はシチューキン。繊維貿易で莫大な富を築いたモスクワの商人です。彼は一度として、美術の正式な教育を受けたことがありませんでした。その上、絵画収集のアドバイザーを持たずに、自分の目と勘だけを頼りに、絵を買っていったのです。
それにも関わらず、彼はわずか20年足らずの間に、印象派からキュビスムに至る傑作揃いのコレクションを作り上げました。しかもゴーガンやルソーなど、二十世紀初頭に描かれた作品の殆どは、それらがまだ評価されていなかった時期にいち早く買い集められた物でした。天才的な審美眼を備えたシチューキンとは、どんな男だったのでしょうか。さらに、一商人である彼が大コレクションを構築できた背景には、何があったのでしょうか?帝政時代末期のロシアに、その謎を探ります。
今回は、プーシキン美術館が誇る、シチューキン・コレクションの傑作の数々をたっぷりとご紹介します。また、当時の雰囲気が蘇ったボリショイ劇場もご紹介します。さらに、今日のモスクワにおけるロシア現代アートを巡る動きにも目を向けます。