世界の名画 ~美の迷宮への旅~
ストーリー
→ バックナンバー
ラ・トゥール 「大工の聖ヨセフ」
歴史の闇から甦った光の画家
今日の一枚は、17世紀フランスで「夜の画家」と呼ばれた、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」。
夜働く、養父ヨセフの手元を蝋燭で照らす少年時代のキリストが描かれています。
まだあどけなさの残るキリストの小さな指を透かして広がるまばゆい蝋燭の光。
その光によって広がる、静謐な夜の情景。そして、見えてくる養父ヨセフとキリストの深い心のつながり。
バロック芸術が隆盛を極め、ヨーロッパ各地で続々と名作が誕生する時代にあって、美術大国フランスは遅れをとっていました。
さらに、疫病ペストの流行と長きにわたって続く終わりの見えない宗教戦争でフランスは深い不安の闇に沈んでいきます。
そんな中フランスを救ったのは、夜の情景に光をともす画家ラトゥール。
それまでの巨匠たちが描いた、外から差し込んでくる光と全く性質を異にする、蝋燭や松明の光源を絵の中に描きこむという表現をとった名作の数々が残されています。
彼の描いた光は、どのようにしてフランスの人々の心を灯したのか。
国王付の画家でありながら、死後200年ものあいだ歴史の闇に忘れ去られて、肖像画さえも残っていないという謎の多い生涯。
近年になって劇的に再発見されると、ルーブル美術館は、巨額の資金を積んでラトゥール作品を購入して国外流出を防ごうとします。
ルーブルがそこまでしてラトゥールに拘ったその理由とは…。
カラバッジョの「トランプ詐欺師」や「聖マタイの召命」、世界三大名画に数えられるレンブラントの「夜警」や、ルーベンスの「ラス・メニーナス」、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」などを通して、西洋絵画が追求し続けた「光の系譜」を鳥瞰するとともに、ラトゥールが完成させた、夜にこそ灯される独創的な光に迫ります。