世界の名画 ~美の迷宮への旅~
ストーリー
→ バックナンバー
ルーベンス
愛と平和の祈りを絵筆にこめて
「エレーヌ・フールマンと二人の子供」
児童文学の名作『フランダースの犬』の主人公・ネロ少年は、画家をめざしながらも夢破れ、クリスマスイブに大聖堂の中で愛犬とともに天に召されます。この時、ネロが聖堂の内陣で目にしていたのが、ルーベンスの祭壇画「キリスト昇架」と「キリスト降架」でした。これらの作品は、物語の舞台となったベルギー・アントワープの聖母大聖堂に今も飾られています。
ピーテル・パウル・ルーベンスは、17世紀前半にこのアントワープに大工房を構え、2千点とも3千点ともいわれる膨大な数の作品を世に送り出した、バロック芸術を代表する巨匠です。彼が多く手がけたのは、演出に凝ったドラマチックな宗教画や、官能的な女神たちが登場する神話画など、構成に目を見張る壮大なスケールの作品でした。
ルーベンスはそうした大作に取り組む一方で、ごく私的な家族の肖像を何枚も残していました。今回取り上げる「エレーヌ・フールマンと二人の子供」も、そんな作品の一つです。描かれているのは、ルーベンスが53歳の時に結婚した37歳年下の妻と二人の間に生まれた子供たち。母の慈愛に満ちたまなざしに見守られ、あどけない表情を浮かべる子供たちに心なごむ傑作です。実はルーベンスが現れるまで、聖人や王族以外の子供が、名画に登場することはほとんどありませんでした。彼はどんな思いで、こうした絵を手がけたのでしょうか。ルーベンスが当時のヨーロッパで大人気を博した理由の一端が、実はそこに隠されているのかもしれません。
ルーベンスはネーデルラントの宮廷に仕えるかたわら、外交官として乱世のヨーロッパを奔走し、平和の実現に尽力したことでも知られています。そんな彼の作品を貫いているのは、幅広い教養に基づくヒューマニズム。それが作品の大きな魅力となっているのです。番組では、画家の王と呼ばれたルーベンスの波乱万丈の人生を代表作とともにたどりながら、創作の秘密を探っていきます。