世界の名画 ~美の迷宮への旅~
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炎の画家の果てしない哀しみ ゴッホ「烏の飛ぶ麦畑」
自らを拳銃で撃ち、37年の短い生涯を閉じたフィンセント・ファン・ゴッホ。「烏の飛ぶ麦畑」は、彼が死の間際に手がけた作品です。今にも嵐が吹き荒れそうな暗い空。荒涼たる大地にどこまでも続く麦畑。そして、その上空を舞う一群の烏。死を予感させるかのような不吉な気配に包まれたこの風景画を、パリ郊外のオーヴェール・シュル・オワーズで、ゴッホは一人黙々と描き上げました。「荒れ模様の空の下、果てしなく広がる麦畑を描いた作品で、僕は思い切って、哀しみと極度の孤独を表現しようと努めた」―――ゴッホは制作時の心境をこうつづっています。彼を自殺へと追い詰めた哀しみ、それは一体何に由来するものだったのでしょうか?
その答えを求めて、故郷オランダのゴッホゆかりの地を訪ね、彼の青年期をたどってみることにしました。若き日のゴッホは、情熱的に過ぎる性格が災いして、恋愛は挫折の連続でした。絵画に本格的に取り組み始めたハーグでは、子連れの娼婦と同棲し、愛の巣をつかの間築くものの、周囲の反対にあって別離を余儀なくされます。それ以降も恋愛運に見放され、家庭を持つという夢が叶うことは生涯ありませんでしたでした。一方で、ゴッホを物心両面から支え続けた弟のテオは、画商の仕事で成功を収め、恋愛も実らせて伴侶を得ます。夫婦の間に子供が誕生したのは、ゴッホが死を遂げるその年のことでした。実はこの出来事が、一心同体の絆で結ばれていた兄弟の関係に微妙なきしみを生み、ゴッホを追い詰めていくことになるのです。
今回はゴッホ美術館所蔵のコレクションを中心にゴッホの傑作を鑑賞しつつ、ゴッホが青春時代を過ごしたアムステルダムやハーグなどの町を探訪。終焉の地オーヴェール・シュル・オワーズでは、最後の70日間の足取りをつぶさに追い、ゴッホの死の真相に迫ります。また、ハーグでは、ゴッホも感嘆したという、世界最大級の風景画もご紹介します。