世界の名画 ~美の迷宮への旅~
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幸福の画家が描いた子供たち
ルノワール 「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」
陶器のような白い肌、清楚なドレスに栗色の髪。少女の可憐さを見事に表現した「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」の肖像は、ルノワールの傑作中の傑作として高い人気を誇っています。モデルとなった少女は当時8歳。パリで名の知れたユダヤ人銀行家の令嬢でした。結婚と離婚を二度重ねる奔放な半生を送った彼女は、第二次世界大戦の勃発によって、思わぬ試練と直面することになります。
印象派の巨匠たちの中でもとくに人物画を得意としたルノワールは、富裕層のパトロンから注文を受け、その子供たちの肖像画を多く手がけることで名声を高めていきました。彼が活躍した19世紀は、家族の意識が強まり、子供をかわいがる親が増えた時代でした。そんな世相の変化も、彼の活躍を後押ししたのです。「絵画は楽しくて、きれいなものであるべき」という一家言をもっていたルノワールにとって、子供、とりわけ少女は、幸福の象徴ともいえる魅力的なテーマでした。
ルノワールがイレーヌの肖像を描いた1880年、文学界でも子供を主役として一世を風靡する作品が登場しました。題名は『ハイジの修業時代と遍歴時代』、あの「アルプスの少女ハイジ」の原作です。著者はスイス・チューリッヒ郊外の山村に生まれた女流作家ヨハンナ・シュピリ。結婚後に移り住んだ大都市チューリッヒでホームシックにかかった体験が、「ハイジ」誕生のきっかけとなりました。気晴らしに訪れたアルプス山麓の村で、彼女は物語の着想を得たのです。「ハイジ」はそれまで主流だったファンタジーとしての童話ではなく、リアリティのある人間ドラマだったという点で、画期的な児童書でした。
今回の旅のキーワードは「子供」。ルノワールが子供を描いた傑作の数々から、その人物像と創作の秘密に迫ります。さらには、児童文学の新たな扉を開いた名作「ハイジ」の原風景を求め、物語の舞台となったアルプス山麓の村、マイエンフェルトを探訪します。