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地中海 6つの旅 ~大地の歴史をさぐる~
第6回 塩と文明
大地の下で働く地質学的な力に着目して、地中海沿岸の歴史や文化を見直し、謎を解き明かしていくシリーズの最終夜は、塩と文明をテーマに送る。
塩は水と同じように地球の気候を変動させる力となり、文明の発達に大きく関わってきた。塩によって加速された気候の変動は、人々を窮地に陥れもするが、塩を利用する方法を編み出した文明は繁栄を手にすることになる。保存料としての塩は貴重な商品となり、通貨の代わりにもなったが、香辛料貿易の発展により、香辛料にその地位を奪われることになる。塩をキーワードに展開されるダイナミックな文明論は新鮮で興味深い。
シリーズを通して楽しさいっぱいだったイアン・スチュアートの進行ぶりは、最終回の今回もみどころ満載。たき火と雪の球、さらにはエスカレーターを使って地球の気候の変動を説明したり、海水がなぜしよっぱくなったのかを説明するのにプールとビーチボールを使ったりと、最後まで見る者の興味をひきつける。
はるか昔には神々のなせる業だと信じられていた自然現象が、科学的に理解されるに至った道筋をたどる。
岩塩から採れる塩も、地質学と密接に関わる鉱物だ。塩は人類にとって、常に欠かせないものだった。氷に閉ざされた氷河時代にも、コケが塩分を取り込み、そのコケをトナカイが食べ、トナカイを人間が食べるという形で塩を摂取していた。
塩は地球の気候の変動にも、大きな役割を果たしている。海では塩分濃度の違いから海流が起こる。南の温かい海水が北へと運ばれることによって、北極の氷が解け、地球の温暖化を促した。
この温暖化の結果、東アフリカの山々に多量の雨が降り、それがナイル川の水源となって、偉大なエジプト文明が花開くことになる。古代エジプト人はこのナイル川の氾濫でできた肥沃な土地を利用して農業を営み始めるが、雨が少ない年には飢饉になることもあった。飢饉に備えて食料を保存しておけないかと考えたときに、エジプト人は塩が役に立つことを発見する。エジプトの砂漠の砂には塩が混じっており、その塩入りの砂を保存料代わりにしたのだ。
一方、砂漠の代わりに海に囲まれていたフェニキア人は、塩田をつくり、海水から塩を生産して財を成した。塩は文明の繁栄を支える貴重な商品となったのだ。時代は下り、香辛料貿易が盛んになると、塩は保存料としての重要性を失う。香辛料は西洋人の味覚を刺激し、何よりも貴重な商品となった。しかし塩(salt)は給料(salary)の語源となっているなど、塩の重要性を示す名残はいたるところに残っている。