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地中海 6つの旅 ~大地の歴史をさぐる~
第2回 石と建築
私たちの足元、大地の下で働いている地質学的な力に着目し、地中海沿岸の歴史や文化を見直し、謎を解き明かしていくシリーズ。第二夜である今回は、建築をテーマに送る。
なぜ古代エジプト人は三角のピラミッドを造ったのか? なぜ古代ギリシャ人は四角いパルテノン神殿を、なぜ古代ローマ人は丸いドームを持つパンテオンを造ったのか…? その答えは、大地の下にあった。大地の下で働く力がそれぞれ異なった性質の石を生み出したためだ。それぞれの土地で手に入る石や自然現象が、その土地の建築の様式を決めてきたというイアン・スチュアートの説は、説得力がある。また地質学的な事象を、身近なものを使い、子供でも楽しく学べるように説明するイアンの進行ぶりは見る者をひきつける。ウェハースを砂岩に、マーブルケーキを大理石に、シャンパンを噴火する火山に見立てたり、浮き袋を使って地殻プレートの衝突や沈み込み現象を説明するなど、地質学を親しみの持てるものにしている。
地質学者のイアン・スチュアートが地中海の名所を旅しながら、大地の下で働く地質学的な力と古代建築の関係をひもといていく。
古代エジプトのピラミッドは、石灰岩でできている。その石灰岩は、5千万年前、エジプト北部が海底にあった頃、海洋生物の死骸が積もってできた堆積岩である。ピラミッドの形は、石灰岩という素材で天に届くほど高い建造物を造ろうとして行き着いた答えだった。
同じエジプトでも、カルナックのアメン大神殿は砂岩でできている。屋根を支える柱が必要だったが、砂岩は堆積岩なので層の向きを誤ると脆くなる。そこで石を水平に積み重ねて柱を造る技術が生まれた。
この柱と梁の構造を応用したのが、古代ギリシャである。豊富にあった大理石でパルテノン神殿を造ったのだ。大理石はもともと石灰岩だったが、地殻プレートが衝突し、地中に潜り込んでマグマの熱にさらされて変質した変成岩である。堆積岩より強度があるため、細く装飾的な柱や梁を造ることが可能となった。
しかしもっとも恵まれていたのは、古代ローマだった。火山があるため豊富にあった火山灰と石灰を混ぜて、水に強いモルタルを発明した。さらにモルタルに砂利を混ぜて、強固で自由自在に作れるコンクリートを生み出した。このコンクリートと、従来からあった焼きレンガの組み合わせで、コロッセウムをはじめとする数々のアーチ建築が生まれた。梁のように中央が崩落する心配のないアーチは、画期的な構造だった。そのアーチ建築の集大成といえるのが、パンテオンの巨大な丸い屋根である。半球型のドームの実現により、内部に広大な空間を持つ、柱を使わない建築が生まれたのだ。