百年名家~築100年の家を訪ねる旅~

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岡山・倉敷~時代と共に歩む「おもてなしの町」

今回の『百年名家』は、岡山・倉敷美観地区。

倉敷美観地区は中世頃まで、遠浅の海でした。その後、倉敷川を中心とする一帯は干拓による田地の開発が進み、江戸時代には物資輸送の集散地として栄え、幕府直轄地の「天領」として代官所が置かれるほどに発展しました。そして明治時代、実業家・大原孫三郎が、当時の主要産業であった紡績業で成功し、社会・文化事業にも大いに取り組み、今日の美観地区の礎を築きました。その町並みには今も多くの町屋が残っており、工夫の凝らされた意匠が各所に見られます。町屋に用いられている倉敷窓や倉敷格子などは江戸~明治時代のものとされており、昭和54年には国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されました。そんな昔ながらの生活が息づく町並みを、八嶋さんと本上さんの二人が巡ります。

最初に二人が向かったのは吉井旅館。今から270年前の江戸中期に建てられたもので、当初は蘭学医の医院兼住宅だったと言われています。その後、米問屋などを経て、1900年頃(明治30年代)に旅館となりました。紡績業が栄えた明治末には技術者を泊める宿として、また大正・昭和の時代には商売人の木賃宿として繁盛するなど、変転する時代とともに生きてきました。中でも坂本龍馬も宿泊したと言われている茶室部屋、米蔵を改築した部屋、洋風に再生した部屋など、見どころ満載。そこで二人は女将から倉敷流「おもてなしの極意」を学びます。吉井旅館の"おもてなし"とは、一組一組の要望に合わせた接客のことで、代々の女将によって引き継がれているもの。建物とともに引き継がれる「心意気」を感じました。

次に向かったのは倉敷本染手織(ほんぞめており)研究所。昭和28年(1953)創設。民芸運動家の外村吉之助が、自宅を開放して作った学校です。草木など天然の染料で行う本染め、昔ながらの機(はた)を使う手織り、それに綿花などから糸を紡ぐ手紬の3つの技能を習熟させます。生徒は、18歳以上の女性のみ。ここで一年間、研究所に寄宿し寝食をともにして学びます。すっかり機織り作業の虜になった本上さん。一方の八嶋さんは、案内人の紹介で老舗の酒屋に行けると聞いて大はしゃぎ。本上さんを残してちょっとおじゃますることに・・・。

「森田酒造」は明治42年(1909)創業。建築年代は、江戸時代中期頃の町家造り。酒造場は、かつての蔵を改築し、昔ながらの工程で製造しています。また、使われる機械は代々使われている貴重なもので、機械と人の手が合わさって初めて、おいしいお酒が出来るとの事。受け継いだ伝統を守り、そこに新しく独自の工夫を加え繰り返していくことで、オリジナリティが創り出せる。進化していく伝統が、そこにはありました。

2人が最後に訪れたのは、創業200年を越える老舗の提灯店、上島提灯(うえじまちょうちん)。店の奥にある「中庭」は、かつて隣り近所同士が何時でも立ち寄ることができる場所で、町屋のコミュニケーションを生み出してきた場所。増築で失われた「中庭」を再生させたいという思いからリフォームを決行し、井戸端会議が出来る上り框や、夕涼みの縁台を再生し、昔のような近所付き合いが復活したそうです。ご夫婦やお隣さんの気さくなお人柄に、暖かみを感じた2人でした。

今回は美観地区で育まれていく伝統と、古き良き日本の「おもてなし」文化を垣間見た旅でした。