百年名家~築100年の家を訪ねる旅~
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徳島・祖谷 ~天空の里に出会う旅~
今回の『百年名家』は、徳島シリーズの第1弾。三好市祖谷を訪ねます。
「祖谷」は徳島県西部、日本三大秘境に数えられた祖谷川の流域にあります。山の急斜面に沿って広がる集落は、この地方独特の積み上げた石垣の上に、江戸中期から昭和初期の農家が張り付くように建っています。周囲には畑が広がり、古き良き日本の原風景に出会えます。また、祖谷集落は平家落人伝説でも有名な地で、戦いに敗れた武士たちの隠れ里として絶好の場所だったと考えられています。そんな大自然溢れる山あいの集落を、八嶋さんと本上さんが巡ります。
まず2人はこの地方の有名な観光名所、足もすくむような急峻な渓谷に架けられた吊り橋の「かずら橋」を訪れました。元々は平家一族が追ってから逃げるために、いつでも切り離せるように植物で作った橋だったそうです。
好奇心旺盛の八嶋さん、吊り橋が苦手な本上さんを無理やり誘って2人でチャレンジ。
山間に拡がる広い祖谷の中で、今回の目的地は落合集落。その落合集落が一望出来る展望所に向かった2人は、番組初のアメリカ人案内人、アレックス・カーさんと出会いました。アレックスさんは40年前に初めて祖谷を訪れて以来、すっかりこの地に魅せられたと言います。1973年には祖谷で茅葺の古民家を購入したほどです。落合集落は標高500~750メートルの斜面に張り付くように寄せ棟造りの家が並んでおり、人口は約100人。平成17年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれました。主な産業は農業。急斜面の畑に、かつては煙草や三椏(みつまた、紙幣の原料)、お茶や養蚕などで生計を立てていました。
アレックスさんの紹介で最初に訪れたのは「長岡家住宅」。明治34年に建てられた家で、落合地区の中でも裕福な家だったといわれています。家の外側に突き出た便所の肥溜めは外から開けることができ、中はかなり大きな容積となっています。家の内部には囲炉裏部屋が二つあり、用途によって使い分けられていました。また、サツマイモを貯蔵するためのイモ壺(穴)もあり、そこは想像以上に深い穴蔵となっています。興味津々で深いイモ壺を探検する八嶋さんでした。
続いて2人は落合集落の探索に向かいました。祖谷の建物の特徴は、主屋と納屋、隠居屋が等高線に沿って直線状に並び、正面には農作業のスペースを設けているレイアウトになっていることです。かつては主屋の屋根は茅葺でしたが、現在はトタンが主流です。壁は土壁で、その外側に「ひしゃぎ竹」と呼ばれる割竹を被せる独特の仕上げとなっています。また、少し前までは、この辺りには、車が通れるような道はありませんでした。歩いて重い荷物を担ぎながら山を登ったそうです。その時、使ったのが「里道(りどう)」と呼ばれる道です。集落には峠から川へと下る里道と、等高線に沿って通る里道が地区内に縦横に設けられ、まさに住民の生活道でした。
急な斜面の里道をアスレチック感覚で登る2人でした。
最後に訪れたのは茅葺民家ステイ「浮生(ふしょう)」。この4月にオープンした古民家の宿泊施設です。アレックスさんと市が協力して築100年以上経った家を再生させました。この家は10年あまりに渡って廃屋同然の空き家でしたが、梁や柱などの基本構造はそのまま使用し、現代人が古民家暮らしを快適に体験できるように工夫しました。窓はペアガラスに、風呂場とトイレは新たに設けました。現在保存地区の建物は50軒あまり。その内10軒以上が空家なのだそうです。アレックスさんは、大好きな祖谷の家に誰も住まずに、貴重な古民家が滅びていくのを見るのが忍びないと感じていました。海外では歴史ある建物の外観を残して、現代人の生活に合わせた形に内部をリフォームしてきた歴史があります。しかし日本では、今までそのようなことはあまり行われてきませんでした。そこでアレックスさんは、古民家の美しい歴史的外観を残しつつ、現代人が快適に暮らせる空間はできないかと、2年前から再生活動を始めました。快適な空間ができれば、多くの人が祖谷を訪ねて来て、素晴らしい景色を見に来てくれる、その想いがアレックスさんの糧となっているのです。10軒の空家の内8軒を順次再生させる予定で、現在2軒を改築中だそうです。浮生からの素晴らしい景観を目の前にしながら、アレックスさんの日本家屋に対する熱い想いを教えられた2人でした。
徳島の山深い天空の里で、国を超えた古民家保存の情熱に出会った旅でした。