うたの旅人

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初回放送:2010年12月7日「クリスマス・イブ」



とある駅のホーム。真っ赤な口紅で恋人を待つ深津絵里が、ムーンウォークで現れた彼とじゃれあい、コンコースを駆け抜けた牧瀬里穂が、改札から出てくる恋人を柱の陰で待つ。

――1987年の国鉄民営化で設立されたJR東海が、88年12月から5年連続で流したテレビCMシリーズ。この一連のCMソングに使われ、爆発的なブームを巻き起こしたのが、山下達郎作詞・作曲の「クリスマス・イブ」である。

JR東海には曲名の問い合わせが殺到し、曲は89年にオリコン・チャート1位になり、国鉄時代のイメージが一新されたJR東海は、89年春の人気就職ランキングで1位に躍り出た。まさに社会現象になったCMであり、曲なのだ。

1988年当時、世間はバブル真っ只中。クリスマス・イブの夜、都会のホテルはチェックインする男女が列をなし、半年前に予約しないと部屋を取れないとうわさされた。CMの映像と「クリスマス・イブ」のメロディーが、そんなバブル期の聖夜のイメージに重なって記憶される今、あらためて見直してみると、CMで描かれているのは、けなげで好感の持てる恋人たちであり、歌詞そのものも、むしろバブル後の質素なクリスマスになじむ内容なのである。

果たして、当時あれほどまでにバブル気分の大衆に受け入れられた理由は何なのか?

また、1980年代には『夏男』と言われていた山下達郎は、この曲のヒットで一転『クリスマス男』になり、その名は俳句の冬の季語にまでなった。
さらには89年の大ヒット後も連続14年オリコンベスト100入りを果たすという記録を達成し、2009年になっても別のCMに使われるなど、「クリスマス・イブ」という曲は作り手の運命をも変え、時代を越えて歌い継がれ、国民歌謡とも呼べる存在になっている。

今も尚、さまざまな現象を生み出し続ける「クリスマス・イブ」。

何故、この曲はこれほど人々の心の琴線に触れるのか?

――時代の表層を見ているだけではわからない、時を越えた、人々の心の奥深くの真実に番組は迫る。