市長はムコ殿
ストーリー
第6話 「経験のススメ」
町内会が分裂の危機に瀕していると、会長の多後が憤慨している。原因は若い副会長が回覧板を廃止してメールで連絡を済ませようと主張していることであった。メールを使いこなせないお年寄りが行事に参加できないという事態が起きているにもかかわらず、町内会の若いメンバーはお構いなしに効率化を優先させようとしている。話を聞かされた乙女も、怒り心頭であった。
そんな時、大将は『熟年イキイキライフ条例』という政策が市で検討されていることに関心を寄せる。若い市民とお年寄りとの世代を超えた交流を推進するための政策で、内容は主に若い世代がお年寄りを支援するものだった。大将はその草案にどことなく違和感を覚えるのだが、うまく言葉に出来ない。
ある日、珍しく元気がない多後の姿があった。
「健康診断で、胸に怪しい影が見つかっちまって……。あと半年ってとこかな?」
死期を悟った多後を前に、大将はお年寄りのために何ができるのか、頭を悩ませる。
秋吉家に美羽の友達たちがやって来ての賑やかな週末。父の日を前に、みんなでプレゼントを手作りしようと集まったのだ。女の子たちはクッキーを手作りする中、大将と侑希は直貴という男の子に日曜大工を教えることに。しかし、二人ともまったくの苦手分野で、教えるどころではない。
そこに現れたのが多後。自分の息子に教えた要領でノコギリの使い方から優しく教えてやると、直貴は喜んで大工作業に精を出した。父親が海外出張で不在なため、直貴は母と二人暮らし。日頃父親から男の仕事を教わることが出来ない彼にとっては新鮮な経験となり、少しのケガを物ともせずに母へプレゼントする踏み台を完成させる。
その夜、直貴の母が怒鳴り込んでくる。ピアノを習わせている直貴が金槌で指をケガして帰ってきたからだ。そんな母親に向かって、多後は厳しく言い放つ。
「あんた、母親失格だよ! この踏み台はな、息子がアンタを想って一生懸命こさえた、この世でたった一つの特注品なんだぞ!」
多湖に厳しく叱られたことで、その母親も過ちに気づいたようだ。そんな光景を見ているうち、大将の胸に一つの想いが込み上げる。
町内会の副会長に会ってみたことで、大将は確信を抱く。いま必要なのは、若者がお年寄りを助けることではない。お年寄りが長い人生でしてきた様々な経験こそ、現代社会の財産。それを若者に伝えていくことが若者のためにもなるし、お年寄りも生き甲斐を再発見することができるのだ。
大将は『熟年イキイキライフ条例』の新たな要綱を作り上げるのだった……。