市長はムコ殿

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ストーリー

第1話  「市長誕生」

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都心からやや離れたところにある、人口8万6千人ほどの西曙市。のどかな町並みの中にたたずむ由緒ある名家・秋吉家では、大勢の人々が慌ただしく動き回っていた。当主である秋吉義明の葬儀が営まれようとしており、家族や一家を取り巻く人々は、その準備にてんてこ舞いだ。
厳格な昭和の面影残る未亡人・乙女(65)。乙女との間にわだかまりを抱えており、どこかぎこちない娘の真理(38)。その両者に挟まれて気を揉んでいるのが、秋吉大将(41)。義母にも妻にも頭が上がらない、気弱な婿養子であった。その日の出棺の際には腰を痛めて棺を落としてしまい、荘厳な葬儀を台無しにするという大失態を犯してしまう大将であった。それでも心優しい大将のことを嫌う者はいない。ただ一人を除いては……。
「僕、嫌われてるんです。お義母さんから……」
なぜかといえば、大将と真理の結婚が"できた婚"だったからだ。そのことを19年間、いまだに乙女は認めていない。その執念深さには閉口せざるを得ない。

義明の初七日の日、大将らは家族会議のため、乙女に呼び集められた。仕切り屋の町内会長・多後や市長秘書の半田までもが乙女に呼び出されていた。
「主人の遺品を整理していたところ、大変なものが出てきました」
大変なものとは、義明が市長職の傍ら片時も手放さなかった手帳であった。そこには、ゴミ処理施設建設問題をめぐって与野党が紛糾している事実が綴られていた。そして、与党議員に裏切り者が出たとも書かれている。ほとんどの与党議員は義明と同じ建設反対派であったが、数名が金銭に釣られて寝返ったという衝撃の事実であった。
その手帳に書かれた亡き義父の思いが、大将にもひしひしと伝わってきた。未来の子供たちのために素晴らしい町を作っていこうとする前市長の遺志。
「ここで、家族会議の本題です。まもなく市長の補欠選挙が行われます。『最後の一人になっても断固戦う』、これが主人の遺言でした。このままでは政権が奪われ、この町にゴミ処理施設が建てられてしまいます」
それは断固阻止したい。大将も、真理も、娘たちも、この町がよりよい町であって欲しい気持ちは同じだ。
「あなたを擁立します」
乙女は、大将を指さした。
「……ボク?」
「選挙に出るのですよ」

大将は固辞する。自分が争いを好まず、平凡な生活の中に幸せを見出すタイプの人間であることは誰よりもよくわかっている。人前で喋るのも苦手だし、リーダーシップは皆無。政治の世界には最も不向きな男だ。
しかし、乙女は引き下がらない。大将以外に擁立すべき男は、秋吉家にはいない。
「環境問題、見過ごしてもいいんですか? 子供たちの未来のためにも、あなたには後世に対する責任があるんじゃないんですか?」
大将が断ろうとすると、真理が先に口を割った。
「やるしかないわね。出るだけ出てみようよ」
なぜか真理は市長選出馬に乗り気だ。周囲に押し切られるかたちで、大将は遂に首を縦に振った。
「大将さん。どうか秋吉家を助けてください」
乙女がはじめて大将の名前を呼んだ。19年目にして、はじめて結婚を認めたのだ。
……そうしてダメ元で市長選に出馬した大将は、なぜか当選してしまうのだった。