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2012年10月26日
「手仕事×伝える」 前編
美しい自然に恵まれたこの国の人々は森羅万象を生かして
様々な暮らしの道具を生み出してきました。
無駄がなく、美しい道具には日本人が自然の姿や有り様から学んだ美意識と、
ものづくりの智恵が詰まっています。
それを受け継いできたのが職人の「手」。
そんな日本の手しごとを未来へと繋げていく人がいます。
今回は、「職人」という仕事を選び、
手によってでしか伝えられないものを伝える若き伝承者たちを訪ねます。
日本人は古くから、石を信仰や鑑賞の対象として大切にしてきました
石を見る、と書いて「硯」。
墨を摩るための道具でありながら、その美しさは見る者の心を動かします。
また、硯を作ることは素材の石を見極め、その石と向かい合うことでもあるのです。
そんな「石を見る」仕事に情熱を捧げている人がいます。
浅草にある書道用品の老舗「宝研堂」の四代目・青柳貴史さん。
仕事を見せてもらうと、硯は手だけで彫らず、肩を支点にして、体全体の力をかけて彫っていました。
職人の「手」の記憶は、硯とともに、未来永劫生き続けます。
富山県・朝日町蛭谷。美しい里山と水の恵みは、この地に、和紙の文化をもたらしました。
蛭谷和紙は、400年前からこの土地で作られ、
現在では、「越中和紙」の一つとして、国の伝統工芸品にも指定されています。
手漉き和紙独特の柔らかな風合いが好まれ、かつては障子紙として広く使われていました。
しかし、日本家屋の減少とともに需要は減り、
昭和20年代には130軒ほどが行っていた紙漉きもここしばらくは、
職人が一人という状況が続いています。
日本で唯一の蛭谷和紙職人、川原隆邦さん。
かつてこの場所で紙を漉いていた最後の蛭谷和紙の職人から、
技術や道具をすべて受け継ぎ、現在では、彼が一人で蛭谷和紙の伝統を守っています。
和紙の原料となる楮。里山に自生していたものを移植し、自ら栽培しています。
400年前と変わらない道具と方法を川原さんは守っています。
日本の製鉄のふるさと島根県・出雲地方。
製鉄に適した砂鉄が採れ、鉄を打つ時に必要な木炭となる樹木に恵まれたため
「たたら」と呼ばれる製鉄所が発達しました。
「たたら」とは、元来、空気を送る「ふいご」のこと.。
ふいごを足で踏んで炉に風を送り、鉄を精錬しました。
原料の砂鉄は木炭の熱で還元され、黒い鉄の塊に生まれ変わります。
鉄の塊は様々な道具に姿を変え、また溶かせば、
新たな道具に生まれ変わり、形を変えて使い続けられるのです。
島根県・安来市。ここに、手間隙かけて鍛冶を行う若い職人がいます。
およそ200年続く「鍛治工房・弘光」。
10代目の小藤洋也さんと、その息子宗相さん、さらに、娘の由貴さんの3人。
こちらで作っているのは、代々受け継いで来た、
鉄をミリ単位の精度で自在に操る技術を応用した燭台です。
由貴さんのアイディアで、現代の暮らしに合わせたモダンなデザインの燭台も作り、
女性に人気のヒット作となっています。
兵庫県小野市。江戸時代より刃物の産地として知られた町。
かつては多くの工房がひしめき、熟練の職人が技術を高め合いましたが、
近年、職人は減る一方です。
そこに40年ぶりに登場した若き鋏職人。
多鹿治夫鋏製作所の4代目、多鹿大輔さん。
多鹿製作所が看板商品とする裁ちバサミの技術を活かして、
新しい鋏のブランドTajikaを立ち上げました。
モノを切る道具としてはもちろん、置くだけで存在感のある鋏がコンセプト。
職人の手仕事で作られた鋏は当然、使い勝手や切れ味も抜群です。
素材や形もさまざま。使う人の生活のシーンに合わせて選べる
おしゃれな鋏のブランドとして注目を集めています。
江戸指物。
木目を生かした美しい紋様と一部のズレも無い精緻な作り。
釘やネジは一本も使っていません。
いまでは高級品になってしまいましたが、かつては庶民の間で広く使われていました。
様々な種類のノミやカンナ、小刀などの道具を使い、
木を削り、溝を切って組み合わせるだけで、丈夫で美しい家具に仕上げるのです。
若手の女性指物師がいます。河内素子さん。
今年で職人歴は12年になります。
もともと手先が器用で、ものを作ることが大好きだった河内さん。
就職のことを考えていた大学4年の時、毎年、
谷中で開催される「江戸指物展」で出会ったのが、師匠の井上喜夫さんでした。
それから12年。次から次へと作品を生み出した河内さん。
初めて出品した日本工芸展で、新人賞を受賞するまでに成長しました。
身の回りから、手間ヒマをかけたものが消え始めたのはいつごろからでしょうか。
けれどまた少しずつ、手しごとのぬくもりや、
長く使い続けられる工夫が見直されはじめています。
若き職人たちの「手」が伝えようとしているもの。それは未来への希望なのかもしれません。
多鹿治夫鋏製作所(鋏職人) http://takeji-hasami.com/index.html
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宝研堂(硯職人) |
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蛭谷和紙(和紙職人) |
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鍛冶工房弘光(鍛冶職人) |