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2012年7月6日・20日
「涼む×夏(前編) 日本の伝統・着物」
かつて、自然にあらがうことなく、涼を感じてきた、この国の先人たち。
それは、装いも同じこと。
夏の着物は、自然と人への思いやりに溢れたエコの感性そのものでした。
6月、衣更(ころもがえ)が終わると着物は「単衣(ひとえ)」といわれる裏地の無いものに。
夏の盛り、7月、8月には、薄物(うすもの)」といわれる、透ける素材を単衣仕立てにしたものを纏います。
透けて涼しげな印象の夏の衣。
時間と手間をかけて織りこまれたのは、日本人の美意識です。
絹で織られた、「絽(ろ)」。
夏の代表的な染めの生地です。
着物や帯,襦袢などにも使われる絽は透ける部分が縞になって現れるのが特徴。
強い透け感が涼味を誘う、「紗(しゃ)」。
絽とならび、夏を代表する絹織物です。
「糸」が「少ない」、その文字が表す通り、細かい隙間が均一に透ける、織りの生地。
風を通し、見る人にも涼やかな印象を与えます。
麻を糸にして織りあげる、縮(ちじみ)。
強く縒りをかけて紡いだ糸は、肌に密着する面積が少なく、さらりとした肌触り。
独特のシボ感が特徴です。
「麻」を使ったものの中で、最高級の「上布(じょうふ)」。
献上品や武家の礼装にも用いられてきた、粋を極めた、希少価値の高い織物です。
人間国宝の染織家、土屋順紀さん。
土屋さんの作品は、向こうが透けて見える「紗」。
奈良時代、貴族も愛したという伝統的な織物です。
土屋さんが手掛けるのは、「紗」の中でも、極めて複雑とされる「紋紗(もんしゃ)」。
平織りと紗織を混ぜることで、隙間のある部分とない部分を織分けて模様を出す、高度な技法です。
まるで生きているように表情を変える土屋さんの紋紗の織物。
自然の恩恵と風土を活かした、夏の着物が沖縄にあります。
沖縄で最も古いとされる伝統的な織物、芭蕉布(ばしょうふ)。
その素材全てが、この地の植物を用い手作業で生み出される自然布です。
しなやかでひんやりとした肌触り。麻のような、独特なしゃり感。
軽くて涼しい芭蕉布の着物は、かつて、夏の普段着として着られ、沖縄の暮らしに欠かせないものでした。
使うのは、沖縄の特産である芭蕉の木。
繊維が採れる、糸芭蕉のみを使用しています。
芭蕉布を一反織り上げるまでには多くの工程があり、時間をかけて糸作りから「織り」、「仕上げ」と一貫して手作業で行われています。
着物とは切っても切れない草履や下駄。足下から涼しくありたいもの。
下駄には桐が多く使われています。
桐は軽く、吸水性に優れ、素足にあたる感触は一度履いたら病み付きに。
ひんやりした足の裏の感触が心地よい胡麻竹。
畳表を貼った下駄も涼しそうです。
下駄は木の年輪を履いて味わうようなもの。
足の裏で感じる、自然の息吹。
夏を涼しく過ごすエコな履物。
様々な知恵や工夫で、涼しさを呼び込む、日本の着物。
素材で、織り方で・・・。でも、それだけではありません。
着物や帯に描かれた柄にも涼しさの演出がほどこされているのです。
それは一足早く季節を先取りすること。
秋の風を思い起こすことで、涼しい気持ちになる。
四季に恵まれた日本らしい、粋な心遣いです。
豊かな自然が残る、東京都青梅市。
ここに、季節の移り変わりを図柄にして描く手描き友禅の工房があります。
真っ白な反物に、華麗な絵模様を描き緻密に染めていく手描き友禅。
京都や加賀が有名ですが、東京にも江戸友禅の歴史が息づいているのです。
柄に細かく色をつけていく、友禅挿し。
わずか数種類の染料を混ぜ合わせ、100以上もの色を作るといいます。
着物が織りなす涼の美。日本人が育んできた感性が息づいています。
暑さの中にも美しさを見いだし、美を感じることで、涼やかな気持ちになる。
そんな知恵と感性が私たちの中には宿っています。
銀座もとじ
住所:東京都中央区銀座4-8-12 |
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大宜味村立芭蕉布会館
住所:沖縄県国頭郡大宜味村字喜如嘉454 |
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辻谷本店
住所:東京都台東区浅草1−28−1 |
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腰原きもの工房
住所:東京都青梅市柚木町2丁目389−1 |
ドラ・トーザン(Dora Tauzin)
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