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2011年10月14日・11月4日放送 「護る×漆」
うるし。
日本ならではの美しさを誇るものの一つ。
その名前は「うるわし」とからともいわれます。
その美しい輝きは西洋人をも魅了し、漆は英語で「japan」と呼ばれる、オリエンタルビューティーなのです。
かの女帝マリアテレジアは「ダイヤより漆が好き」と、自らの宮殿に 漆の間をつくったといいます。
しかし、漆は美しいだけではありません。
「護る」
塗ったものを傷つきにくく、腐りにくく、丈夫にする。
漆は日本の日常に欠かせないもの。
「大切なもの」を、何十年、何百年と優しく護ってくれるナチュラルな素材。
日本人の美とエコロジー・・・「漆」の物語です。
漆に秘められた、日本人の心を訪ねていくのは・・・フラワーアーティスト・ニコライ・バーグマンさん。
母国・デンマークでフラワーアレンジメントなどを学んだ後、13年前に来日し、以来 日本で活動。
ヨーロッパ独特の「色彩美」と日本の「繊細な技」が融合した斬新なスタイルで注目を集めます。
石川県輪島市。日本を代表する漆の町。
江戸時代にこの地で創業した大崎漆器店。
輪島の伝統を伝える貴重な建物です。
柱や階段、腰板は、生の漆を塗った「拭き漆」で仕上げられ、もう80年以上、一度も手を加えられることなく変わらぬ艶で建物を護っています。
そして、ギャラリーには・・・黒や朱を基調にした 漆の生活道具たち。
高い技術だけでなく、センスと遊び心あふれる品々。
輪島塗が、これほど人の目を引きつけるのには理由があります。
それが、「塗師屋」の存在。
職人をまとめて、漆器の企画から製造販売までを指揮する、いわば漆のプロデューサーです。
江戸時代、全国で販売を行いつつ最新の流行や客の好みを知り、それを輪島塗に反映させたのです。
塗師屋の家は細長く、「住前職後」といわれます。
住まいが手前で、奥に職人の働く部屋があるという意味。
塗師屋である大崎さんの家の奥では、今も職人さんたちが働いています。
昔と変わらない、手間のかかる仕事。
それが、輪島塗りの伝統を支えています。
職人部屋に積み上げられた、漆を入れる古い桶・・・
時代を超えても、変わらない技を見守り続けます。
古地喜太郎さんは輪島でも数人だけになってしまった「漆掻き職人」。
漆の原料、ウルシの木。日本では古くから栽培され、かつては あちこちの山里に茂っていました。毎年6月から10月のあいだ、10年ほど育った木からウルシを採取します。
木の幹に付けた傷。そこから出てくる樹液を一滴ずつ根気よく集めるのです。
漆を、もっと暮らしの中へ。
そんな思いで輪島塗をつくる職人さんがいます。
雑誌の編集者を経て、輪島へ移住、うるし職人となった赤木明登さん。
執筆活動なども通し、現代の暮らしにあった漆の器を提案しています。
赤木さんの塗り物は、厳しい下積みを経て身につけた 輪島塗の伝統をしっかりと受け継ぐもの。
そんな伝統技術に加え、新たな試みを積極的に取り入れた作品は、個展を開けば必ず売り切れるほどの人気ぶりです。
椀木地師の池下さん。
椀木地師とは お椀や鉢、皿などの丸い器をロクロで挽く仕事。
分業のすすんだ輪島では、ぬりものの骨格となる「木地」は「木地師」という専門の職人さんが作るのです。
年月をかけた木地は年月をかけて培われた職人の手技で、椀の形に挽かれてゆきます。
そんな木の命を、最高に生かしきるために行うのが「下地」の仕事。輪島塗の下地は、「本堅地塗」とよばれる手間を惜しまないやり方。100以上あるといわれるその工程で輪島塗は他の漆器より、強く丈夫になるのです。
塗っては乾かし、乾かしては研ぎ、また塗る・・・何十回と繰り返される その作業こそが強い輪島塗を、下支えしているのです。
すべての下地作業を終えるといよいよ最後の仕上げとなる、「上塗り」へ。上質の漆をキメの細かい和紙で濾し、不純物をゆっくりと取り除きます・・・・・・。
巧みなハケ扱いの裏にあるのは、職人としての計算。使っている漆の個性と、その時の温度・湿度にあわせて、塗り方を決める・・・・・・
これから長年生き続ける器に今、命が吹き込まれました。
日本人が昔から備えていた「大切な心」。
それが、漆の世界には今も生きているのです。
古い牛小屋を改造したアトリエで創作活動を続けるのは、イギリス出身のスザーン・ロスさん。輪島に住んでもう21年になります。
伝統的な技法も、新しい技法も、素材を探す事から仕上げまでスザーンさんは全てを一人でこなします。
漆の美しさを引き出すのに必要なのは途方も無い手間と時間。
自然が育んだ漆はまるで生きもの。知るほどに、常に新しい魅力で漆はスザーンさんをひきこんでいったのです。
島塗の故郷(ふるさと)、輪島は漆の魅力を次世代に伝えようとしています。
市内にある小学校の給食の時間。
ごはんを盛りつけているのは、輪島塗りの漆器です。
子どもたちは6年間、漆の持つやさしさにふれ続けるのです。
子どもの幸せを願う気持ちが何層にも塗りこめられた漆器は・・・彼らの成長を、末永く見守ります。
まるで、パッチワークのような陶磁器。
「金継ぎ」と呼ばれる方法で修復された器たちです。
そんな「金つぎ」を手掛ける漆の職人、中島さん。
米をつぶして練ったもので、器を仮に接着します。
漆が器を繕(つくろ)う。
わずかな隙間を埋め、陶磁器同士を接着させるのが漆。
はみ出ないよう、ひびわれに沿って漆をしみこませていきます。
金を陶磁器に接着するのも漆の役目。
ひびの部分に、丁寧に漆をつけたら・・・・・・
その線の上に金粉(きんぷん)を蒔(ま)いていきます。
この金粉によって「割れ目」が、「美しい模様」へと変わるのです。
ものを永く愛おしむ日本人は・・・・・・
余ったもの、使い古したもの、壊れたものを知恵と工夫で何度も再構成し、使い続けてきました。
漆は、私たちにとって大切なものを優しく護り続けてくれます。
当たり前の日常も・・・
長い時を越えた、人から人への想いも・・・
そして漆は・・・
かけがえのない生命や自然を護っていく心まで私たちに教えてくれているようです。
塗師屋 大崎庄右ェ門(大崎漆器店)
住所:石川県輪島市鳳至町上町28番地 |
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赤木明登 |
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民宿 深三
住所:石川県輪島市河井町4-4 |
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黒田陶苑
住所:東京都中央区銀座7丁目8番地6号 |
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甚松屋蒔絵店
住所:石川県輪島市鳳至町畠田1-1 |
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蔦屋漆器店
住所:石川県輪島市河井町3-103 |
ニコライ・バーグマン
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