石のことば ~彫刻家・藤好邦江のイタリアの日々~

石のことば ~彫刻家・藤好邦江のイタリアの日々~

放送内容



2012年2月。
寒風ふきすさぶある日、東京・銀座の老舗レストランで、藤好邦江さんとはじめてお会いした。
長いまつげと白い肌と、時折まじる強気な言葉。
ナイフとフォークを優雅に操り、言葉少なに皆の話にあいづちを打つ。きれいな人だ。
その時期、彼女は大事なイベントを控えていた。

それは自身の作品の、ローマ法王への献上式である。藤好さんが彫った大理石によるローマ法王の胸像が、かのローマ法王・ベネディクト16世に献上されることになったのだ。
藤好さんは、世界一の大理石の産地であり、ミケランジェロをはじめ、名だたる彫刻家を引き付けてきたイタリア・カラーラに工房を構え、日々彫刻に打ち込んでいる彫刻家である。主に石彫を手掛ける。

今年32歳。2003年単身渡伊し、アカデミアに入学。彫刻の勉強をはじめて9年ほどで、その作品が、ローマ法王への献上品に選ばれる、これはすごいことなのではないのか?
イタリア人にとってみれば、ローマ法王といえば大変な権威だろう。それを遠い異国からやってきた若い女性が成し遂げたなんて。

藤好邦江という人が、どのようにしてここにたどり着いたのか、ぜひ私は知りたいと思った。
どのようにその腕を磨き、何を表現したくて、そしてどこへ行くのか。
異国でのひとりっきりの修行とはどのようなものなのか。
彫刻とはいったいなんなのか。彼女が特に打ち込んでいる具象表現とはいったい?



彫るという作業がいったいどのような行為なのか、まだ私たちに完全にはわからない。
けれども、彫るという作業が、とにもかくにも筋力と集中力を必要とし、あきれるほどお腹が空くものだということは教えてもらった。

どのような表現分野においても存在するのだろうが、「職人」と「芸術家」の間には歴然とした差がある。ただ上手く出来るだけでは十分ではないのだ。

彼女が芸術家たらんとしてきた道のり、芸術家たろうと精進している現在、そして芸術家としてどう進んでいくのか、それが私たちが知りたかったことだ。

驚くほどストイックで、向こう見ずで負けん気が強くて。でもとてもチャーミングな一人の芸術家のドキュメントです。

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