昭和偉人伝

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高倉 健

高倉健がこの世を去ってから、2年余りの月日が過ぎた。これまで多くの雑誌や書籍、テレビ、ラジオの追悼番組で、俳優・高倉健の魅力が語られてきたが、日本映画史上における高倉健の功績を真正面から評価する企画は、意外なほど少ない。今回は205本に上る映画出演作品の中から、節目となった5作品、「森と湖のまつり」「昭和残侠伝」「君よ憤怒の河を渉れ」「八甲田山」「ブラック・レイン」を厳選。それらの作品に携わった人々の証言や、雑誌、書籍の取材で本人が語った記事をもとに、戦後の日本映画史に刻まれた高倉健の功績を再発見していく。

昭和30年、かつて東映本社が入っていたビルの地下にあった喫茶店「メトロ」で、運命的な出会いがあった。たまたま店にいた東映・マキノ光雄専務の目に留まったのは、俳優のマネジャーになるため、就職の面接を受けに来た男だった。翌日、東映東京撮影所に呼び出された男は、採用が決まったことを知る。それは、マネジャーではなく、第2期東映ニューフェイスとしての採用だった。「俳優・高倉健」、誕生の瞬間である――。 当時、娯楽の王様として大衆に愛されていた日本映画。大手5社がそれぞれ週替わりで2本ずつ、年間で合計500本にも及ぶ新作映画を製作していた時代。そんな日本映画全盛期に、寡黙で愚直なまでに筋を通し、耐えに耐え、最後に怒りを爆発させる…。スクリーンで高倉が演じた役柄は、高度成長時代の陰で虐げられていた庶民の恨みを、まさに体現。そして、その後も新境地として選んだ脱ヒーロー像、彼を支え続けた「庶民」を演じることにまい進した。

名もなき大衆が支えた最後の映画スター、高倉健。その映画人生をたどることで、戦後の日本映画史と、日本人が忘れつつある怒りや悲しみ、優しさが見えてくる。