ヨーロッパ路地裏紀行

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 [ コペンハーゲン ]  オウン・バンデット通り






デンマークの首都・コペンハーゲン。アンデルセン発祥の地、風光明媚な運河の景観を求め夏には多くの観光客であふれる。中心街から南東へバスで10分のクリスチャンハウン地区は17世紀初め貿易のために築かれた運河沿いの地域。第9回の舞台は オランダ様式のカラフルな建造物が特徴のオウン・バンデット通り。 通りにはカフェが立ち並び、観光ボートが頻繁に往来する。 美しい運河の景観、歴史の趣きを漂う通りは観光客だけでなく、住宅街としても人気のスポット。中心街から近いながら静かな通りは心地よい散歩道。何十年も暮らす老人、小さな子供を育てる若夫婦、アーティストなど様々な世代、階層の人々が暮らしている。

*キアステン・ウェレユス・ソーレンセンさん (84歳)

通りに暮らして66年、街の人なら知らぬ者なしの名物おばあさん。強くて優しい生粋のデンマーク女性。夫婦とも働き、夜勤もいとわず4人の子供を育てあげた。「人に頼りたくない」が彼女の口癖だ。子供たちとベタベタした関係は嫌い、夫と死に別れてからも一人暮らしを続ける。週3回、自宅アパートから近いルーテル教会の救済施設「憩いの部屋」へボランティアに通う。やってくるのは日常生活を営めないホームレス、アルコールや薬物依存症の人々、貧しい移民。キアステンの仕事は彼らに無償で提供される朝食の準備や、洗濯。施設に通い始めたのは8年前に亡くなった最愛の長男の看病がきっかけだった。彼女にとっても施設は救済の場だった・・・移民に対して北欧では閉鎖的な国といわれるデンマーク、しかしキアステンには人種に対する偏見はない。外国人と会話ができるようになりたいと通い始めた英会話教室、グリーランド人たちとの親しい交流など、日常を追う。

*装丁師 クララ・クルスヴィストさん(32歳) 

通りの美しさと静けさに魅了され移り住んできたスウェーデン人。市内で5人しかいない装丁師だ。6年前にアパート1階に仕事場を構えた。日当りの良さ、目の前の運河の眺め、すべて一目で気に入った。装丁は贅沢な趣味だ。依頼主の想いの詰まった大切な本を、希望と予算にあわせてオリジナルで、すべて手作りで仕上げていく。毎朝9時から週70時間も働いているが、大好きな空間で大好きな仕事、クララは日々幸せを感じている。環境が気に入り、2年前からはこのアパートに暮らし始めた。クララは19歳のときにスウェーデンの田舎町の暮らしが嫌で新しい世界を求めコペンハーゲンにやってきた。アルバイトで貯めたお金で専門学校に通い 装丁の技術を身につけた。子供の頃はシャイで甘えん坊だったというクララが、母の死を乗り越え逞しく自活し、通りの隣人たち、そして仕事を通じて新しい仲間と信頼関係をつくりあげてきた人生の軌跡を、日々の生活の中に追う。