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ライオン・知られざる生態 生存の危機
現在、ライオンの数は、急激に減少している。動物学者のジョナサン・スコットは、クレイグ・パッカー教授がセレンゲティ国立公園で長年行ってきた科学的調査の結果をふまえて、ライオンが減少している理由に迫る。
ライオンの数が大量に減ってしまう背景には、家族で生活するライオンの社会構造が大きく関係していた。ジョナサンは、今、ライオンたちが直面している問題と、ライオンの未来についても考える。
1994年、タンザニアにあるセレンゲティ国立公園のライオンにイヌの伝染病ジステンパーが流行し、ライオンが激減した。ハイエナが周辺の村を行き来し、ウイルスを媒介したのだ。ライオンの大量死は2001年にも発生し、“セレンゲティ・ライオン・プロジェクト”を指揮するクレイグ・パッカー教授が調査に乗り出す。すると、ジステンパーの流行は20年間で7回起きていたにもかかわらず、大量死を招いたのは2回だけだったことが判明。調査の結果、どちらも干ばつの末期に起きた流行で、「バベシア」と呼ばれる寄生虫が、ジステンパーで弱っているライオンの命を奪っていたことが分かった。しかも、ライオンは群れ全体で同じ獲物を分かち合うため、群れのライオン全部が一度に感染してしまったのである。
オスのライオンは、特徴的なたてがみを生やしている。なぜライオンのオスだけがたてがみを生やすのか、疑問に思ったクレイグは、ライオンにそっくりな人形を使って実験を行った。その結果、メスは濃い色のたてがみを好むことがわかった。実際に濃い色のたてがみを持つオスは、より強く、長生きする傾向がある。メスは、強い子供を生むために、より強いオスの遺伝子が欲しいのである。またオス同士では、相手がどのぐらい強いかを、たてがみの立派さで判断していることも判明した。
しかし、ライオンのたてがみは、人間のハンターにとって格好のターゲットになってしまう。ライオン狩りは今も広く行われているのだ。ハンターが群れを率いるオスを殺せば、流れ者のオスがその群れを乗っ取り、子供を殺してしまう。子育てをしている間は、メスが発情しないからだ。人間のハンターがライオンのオスを撃つことで、群れ全体に深刻な影響を与えることになるのである。
タンザニアのンゴロンゴロ・クレーターでは、周辺に住む人間が増え、外から新たなオスが入ってこられなくなった。そのため、遺伝子の多様性が失われてしまった。近親交配を繰り返した結果、ンゴロンゴロに住むライオンたちは繁殖能力が落ち、免疫系も弱ってしまった。この問題を解決するには、人の手で群れに新たなオスを放すしかないが、群れはよそ者を嫌うため、そう簡単に実現できることではない。
ジョナサンは、「ライオンの最大の敵は、私たち人間なのだ」と語る。