東京・東麻布にあるうなぎ料理の老舗「野田岩」。創業は、江戸末期寛政12年。伝統芸能家、文豪、政治家など斯界に名を馳せた人物が、芳名帳に名を連ねる名店。繁盛店でありながら、土用の丑の日は休業するのが代々の習わし。
今もうなぎを焼く五代目金本兼次郎(82)は、国産の天然うなぎにこだわり続ける。戦前は自転車で浦安、佐原などを探しまくり、仕入れた。空襲に遭遇し、秘伝のタレも守り抜いた。
雑誌の編集会議を「野田岩」で開いたという作家の吉行淳之介は、うな丼を好んで食べた。「うなぎはつるつるした陶器に入っていたほうがよい。(中略)重箱に入れられると漆器のかすかなにおい、もしくは幻臭が感じられてよくない」と『贋食物誌』に書いている。