うたの旅人

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初回放送:2010年1月8日「恋の季節」





日本の音楽界でいまだ破られていない記録がある。オリコンのヒットチャートで通算17週1位という歴代最高記録である。「恋の季節」がその記録を保持している。
「恋の季節」がなぜこんなにヒットしたのか。実はこの歌には驚くべき秘密が隠されていた。今回の旅は佐賀市。そこにこの歌のヒットの謎をとく鍵があったのである。

1968年初夏。ひげを蓄えた4人の男にかしずかれ、ぽっちゃりした愛くるしい女子高生がライブハウスで歌っていた。ピンキーとキラーズである。
その年の7月。彼らの発表したデビューシングル「恋の季節」は大爆発、オリコンのヒットチャート1位をとり続けた。そして歴代最高記録を打ち立てたのである。
当時、この歌は「プロとして歌いこなすには難曲だが、シンプルなメロデーだから子供から老人まで誰でも歌える唄」といわれた。そして、この歌に高名な民族音楽学者の探究心が刺激された。東京芸術大学教授小泉文夫さんである。
小泉さんは1973年ころ、歌謡曲の音階の構造を分析していた。その時この「恋の季節」のヒットに、ある重大な発見をしたのである。
そして、その歌謡曲分析の論文をあろうことか、正統派クラシックのNHK交響楽団の機関紙「フィルハーモニー」に発表したからさわぎが大きくなった。「フィルハーモニー」が「下世話な歌謡曲」の記事をのせたことにファンはプライドを傷つけられ、不快の念をあらわすものが続出した。
小泉さんはその中で、「歌謡曲の音楽性」は流行歌を音階の構造で分類したとき、一つの注目すべき傾向があると論じていた。「一つの注目すべき傾向」とは何か。
それを解く鍵は佐賀市にあった。昨年、佐賀藩主の鍋島氏が伝来の文物を所蔵している徴古館で、国の重要文化財級の歴史的価値のある巻物が発見された。
その巻物には、平安時代宮廷の大宮人に歌われた「風俗歌」という、古代歌謡26曲の楽譜が書かれていた。「風俗歌」は東国から伝わった庶民の民謡をアレンジしたもので、宮中の儀式で歌われた。その中の一曲「陸奥」は『阿武隈川に霧が立ち込め、夜が明けても、私のもとから彼を帰らせたくない。また会えるまでつらいから』とまるで現代の艶歌とまがう女心を歌っている。そしてこの音楽の構造は今も歌い継がれている、日本の民謡と相通ずるものがあるという。子供からお老人まで口ずさめる、日本の民謡と「恋の季節」。
そこにどんな音楽の構造のつながりがあるのか。番組では音を聞いて実感してみる。