奇跡のピアニスト 辻井伸行 震災から5年・・・それでも、生きてゆく
お知らせ
【放送日時】
12月31日(土)よる9:00~10:54放送
番組概要
アンコールでしばしば演奏する、東日本大震災の被災者への思いを込めた「それでも、生きてゆく」。奇跡のピアニスト、辻井伸行は今も被災者に寄り添っている。人々と音楽の感動を分かち合えるピアニストであり続けたいと願う、辻井のドキュメンタリー。
2016年3月、東日本大震災から5周年を迎える。2009年の第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに日本人として初めて優勝して以来、国際的に活躍しているピアニスト・辻井伸行は、あの日、来日していたBBCフィルとツアー中であった。公演は中止となり、その後に組まれていたアメリカツアーに後ろ髪を引かれる思いで出かけた。アメリカでも震災のニュースは連日伝えられ、辻井は心を痛めていた。
自分に何ができるのか、音楽で何ができるのかと悩んでいた時、メロディーが頭に浮かんできた。それをアメリカツアー最初の演奏会のアンコールで即興演奏をした。「それでも、生きてゆく」。被災者への思いを込めた曲だった。
それ以降、辻井はアンコールで折に触れてこの曲を弾き続けてきた。震災の年の11月、カーネギーホールの招聘(しょうへい)でリサイタルを開いた際も、辻井はアンコールにこの曲を演奏した。この時、演奏しながらこみ上げる涙を抑えきれなかった。ホールは静まり返り、辻井の旋律に聴衆は固唾(かたず)をのんで聴き入った。
8月にサントリーホールで開かれた、BS朝日開局15周年記念コンサートのアンコールでも、この曲をオーケストラバージョンで演奏した。何度も被災地を訪ねた辻井、今も被災者に寄り添う。彼が作曲した数々の曲の中でも、「それでも、生きてゆく」は特別な思いを持つ1曲だ。
サントリーホールでのコンサートは、辻井が作曲した映画・テレビ番組のテーマ曲やピアノソロの曲として書きとめた作品をオーケストラと共に初披露し、作曲家としての辻井の才能に聴衆は感嘆した。コンサートの後半では、ガーシュウインの代表作「ラブソディー・イン・ブルー」を演奏。この曲は14歳の時、指揮者の佐渡裕から声を掛けられて演奏した曲だ。まさに、この曲がその後の2人の絆を深めることとなった。9月で27歳になった辻井は、13年ぶりに同曲を披露。世界のピアニストとしての成長と貫禄を見せつけた。
10月25日に開催された、アメリカ・ボストンでの演奏依頼に辻井はふたつ返事で承諾した。共演するオーケストラは、ボストンの医療関係者で編成されたアマチュアメンバーだ。しかし、技術的にはレベルが高く、これまで多くの著名な演奏家と共演してきた。結成されて30年になるオーケストラは、毎回その収益金を全額寄付。今回も地元ボストンで日本人が設立した自閉症の子どもたちの学校と、福島で被災したユース・オーケストラに寄付される。コンサートの曲目はベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。辻井はショパンやリストを得意とするが、ベートーベンには特別な思いがある。晩年、ベートーベンは耳が聴こえなくなるが、それでも創作意欲は衰えなかった。辻井にとっても同様で、音楽の感動を分かち合えるピアニストであり続けたいと心に誓っている。アンコールで辻井は「それでも、生きてゆく」を披露した。
翌日、辻井はコンサート収益が贈られている自閉症の子どもたちの学校を訪れることにした。この学校では治療法として音楽療法に力を入れている。子どもたちが見つめる中、辻井はピアノに向かった…。