辰巳琢郎の家物語 リモデル★きらり
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馬蹄形のキッチンが真中にあるクリエーター夫婦の家

およそ58万人が暮らす東京のベッドタウン、八王子市。山が多く耕作地が少なかったため、江戸時代中頃から養蚕業が栄え、織物の町として全国的にその名が知られるようになりました。着物から洋服の生活へと変わった大正時代には、ネクタイが作られはじめ、現在では国内有数の産地となっています。
今回訪ねたS邸は、築41年5階建てマンションの一室。ご夫婦と2人のお子さんの4人暮らしです。同じ美術大学の同級生で、奥様はシナリオライター、ご主人はCMなどの映像ディレクターと、ともにクリエイティブな仕事に携わっています。子どもが生まれてから、奥様の実家がある八王子市に賃貸で暮らしていましたが、もっと感性を刺激する家に住みたいと新たな物件を探すことに。また、自分たちの理想を直接反映できると思い、中古マンションを購入して、リモデルすることにしました。その際、東京・三鷹市にある「三鷹天命反転住宅」に体験宿泊。これは、美術家で建築家の荒川修作とマドリン・ギンズが手がけた、「死なないための住宅」をコンセプトに、傾斜やはしごなど身体能力を発揮させる仕掛けが随所に施されており、世界中から多くの人々が訪れる建築作品です。Sさん夫婦は、この建物の「身体能力を発揮させる」という部分を上手に取り入れながらリモデルしたいと思ったそうです。
以前は、正方形のスペースを縦に3等分するように部屋が仕切られ、キッチンは壁向きで、子どもの様子が見ることが出来ず、不便な造りでした。そこで壁を取り払い、中央にキッチンを移動。リビングが見渡せるようにしました。また、床をリビングより一段低くし、馬蹄形のカウンターに座った子ども達と目線が合うようにしています。壁を取りはらってできた大きな柱は、中に鉄板を貼って黒板塗料で塗装し、メモを貼ったり、子ども達が自由にお絵かきできるスペースになりました。
夫婦ともに読書が趣味で沢山の本をどこに収めるかが課題だったというSさん。天井や壁を取り払い、むき出しになった梁に沿って本棚を設ける事に。大きな梁の存在を上手に隠しつつ、背板をつけずに視線が抜けるようにしました。ゆるやかに仕切ることにより、約35帖の空間が広いワンルームのようにも感じられ、子ども達がどこにいても気配が感じられます。また、天井には複数のアンカーを設置。植物のプランターやハンモックを吊ったり、来客の洋服や荷物をかけたりと自由な発想で使っています。部屋の隅には昇り棒を設け、子ども達だけでなく奥さんも仕事の気分転換に使用しているそうです。
以前は個室が並び、分断されていた南側の窓際は、部屋の幅いっぱいに連続したインナーテラスに。遊び心で半円状に切り取った部分には植物を飾っています。あえて段差をつけて、縁側のように腰かけられるようにしました。クリエイターのご夫婦らしく、様々なアイデアを上手に活かし、刺激的で楽しい住まいを実現させました。

設計担当:ブルースタジオ
http://www.bluestudio.jp/ 

 
 
 
 

【平面図】

Before

After

Before After