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2008年1月5日放送 「和を嗜む」

番組の88回目のテーマは「和を嗜む」。
和の伝統。受け継がれてきた匠の技は、先人たちの智恵を現代に映し出す鏡だ。
職人の指先1つ、また使われる1つ1つの道具の向こう側に見える、時を越えた普遍性に、僕らは畏敬の念を抱く。
しかしながら、その技は百年、いや千年もの間、ただそのままの形で受け継がれてきたものではない。それは長い時間の中で、淘汰され、生まれ変わってきた結果の産物。
伝統は、常に進化しつづけることで、その火を燃やし続けてきたのだ。

古都京都の伝統を代表する京友禅。
名工として知られる手描き友禅職人、川邊善司が受け継ぐ伝統の技は、今も変わることのない輝きを放ち、艶やかな美しさで女性を包みこむ。
そんな京友禅の世界が今、新たなときを迎えつつある。アテネ五輪、シンクロナイズド・スイミングで女性たちを飾ったウェアが、実は友禅の絵柄だった。
CGデザイナー、川邊祐之亮(かわべゆうのすけ)。彼は友禅の柄をコンピューターに取り込み、デジタル・データ化することで、伝統の絵柄を着物から解き放ったのだ。
先人たちのアイデアが、コンピューター・グラフィックと出逢うことで、今再び輝き始めた。

日本に数ある伝統。中でも、食の文化には、様々な創意・工夫が重ねられてきた。
東京・向島にある「江戸木箸・大黒屋」はその名の通り江戸・伝統の木箸を、今に受け継ぐ専門店だ。
箸職人・竹田勝彦は、今も手作りで1本1本箸を削りだす。
彼はそんな江戸木箸の伝統を守りつつも、新たな箸を次々と生み出している。
大黒屋には平箸のほか、三角から八角までの様々な箸が存在する。
中でも自信作は五角形だという。人間工学的にももっとも指先に馴染むとされる五角形の箸。一見、形の悪いこのずんぐり箸。変則五角形のこの箸は、そんな科 学的な根拠が評価され、ユニバーサルデザインに選ばれた。江戸の精神と最新の科学が、また1つ、新たな伝統をつむぎだす。

西洋の石の文化に対して、日本は木の文化と言われる。
木の文化の香りを今に伝える、京都の木版画店「竹笹堂」。
仁和寺(にんなじ)に伝わる、世界最大・最多色の木版画「孔雀明王像(くじゃくみょうおうぞう)」。
この国宝の修復を手がけた木版画師・竹中清八の店がこの竹笹堂だ。
しかし「孔雀明王像」の派手で力強い作風とは違い、店内に並ぶ木版画は、どこか色使いも淡く、ソフトな印象の商品が目を引く。
作業場となっている2階にいるのは、1人の女性、原田裕子。
一子相伝。男たちの手で受け継がれてきた木版画の世界に彼女が新たな風を吹かせたのだ。大学で美術教育を専攻していた原田は偶然出会った木版画の魅力に取 り付かれ卒業と同時に、内弟子として入門した。木型に、木から生まれた和紙を重ね、色を刷り込む。その作業はあくまでシンプルで、男性的だ。
原田はその世界に、女性らしいセンスを活かした優しいデザインを持ち込んだ。

全てが簡素化され、お手軽であることが進化だった時代は終わった。
手間をかけてモノを作ることが見直される時、伝統はその存在意義を取り戻す。