バックナンバー
2011年7月15日・29日放送 「涼む×夏(後編)」
東京・神田明神前にある「天野屋」。
創業は江戸時代。今でも、お店の地下にあるムロでは麹菌を育てて、甘酒が作り続けられています。
甘酒と言えば、冬の飲み物・・・
そんなイメージがありますが、実は、俳句の世界でも、甘酒は夏の季語。
江戸の庶民の間で、真夏には、特に欠かせない飲み物だったといいます。
蒸し暑い日本の夏を涼しげに彩り、いつの時代も、夏のおしゃれに欠かせないアイテム、「浴衣」
暑さをしのぐために、浴衣には藍や白といった涼し気な色が多く、絵柄のモチーフにも、どこか「涼」を感じさせる植物や生き物が使われています。
東京・日本橋。
古くから数多くの呉服店が軒を連ねるこの地で江戸時代からのれんを掲げる老舗、「竺仙(ちくせん)」
その美しい柄や、独自の色合いを求めて、いつの時代も、多くの浴衣ファンがやってきます。
5代目当主、小川文男(ふみお)さんは、用と美を兼ね備えていることが、浴衣の真髄だと言います。
多くが天然素材、木綿で作られている浴衣生地。
でも、一口に木綿と言っても様々な織り方で、涼をもたらす工夫が施されていました。
さらにこの反物には、ある趣向が凝らされています。
よく見てみると・・・
気付きましたか?
表と裏、両面に同じ柄が染められています。
あえて裏側も染め抜く。
それは江戸ッ子の、見る者への細やかな気配りと、高いファッションセンスの現れ。
美しい柄には、こんな「粋なこだわり」が秘められていたのです。
そんな江戸の粋を受け継ぐ、唯一の工房が東京・八王子にあります。
マーティーさんは、訪れることにしました。
この地で55年以上、浴衣を染めてきた職人、野口ひろしさん。
藍で浴衣を染める野口さんの工房は江戸時代に東京・京橋で創業。
かつては武士の正装である裃(かみしも)を染めていたといいます。
どんな場面でも、無礼にあたらず、そして何より心地いい・・・
天然の素材と職人の技が作り上げた、夏のおしゃれな浴衣。
そこには、着る者だけでなく、見る人々へも涼しさを送り届けるという、江戸が育んだ粋なはからい、浴衣を楽しむ作法があるのです。
京うちわの老舗「阿似波(あいば)」
かつて、宮中で使われていた「御所うちわ」をルーツに、その歴史は300年以上になります。
ひときわ目を引く「透かしうちわ」は、飾っているだけで、すっと涼しげな風を部屋に運んでくるようです。
凛とした佇まいが、暑い京の夏に、涼しさと華やかさとをもたらします。
風鈴。
風をつかまえ、自然の囁きを音楽にする夏の風物詩。
風鈴の元になったものは古代中国で生まれ、もともとは占いのための道具だったといいます。
人々は、風向きや音色で吉凶を占いました。
新潟県、三条市。
金物の加工では日本有数を誇る町。
その歴史は、江戸の始めまでさかのぼります。
内山さんの和釘は伊勢神宮にも納められ、改修に使われました。
叩いて鍛えた和釘の耐久性は洋釘を遥かに凌ぐのだそうです。
伊勢神宮に収めたものと同じ和釘で風鈴を作ろうと思ったのは、こんな偶然からでした。
風をとらえて、聞く人に涼を届ける風鈴。
それには、和釘の音と響きがぴったりだと気付いたので職人が鍛えた、鉄の涼やかな響き。
吹き抜ける一瞬の風をとらえ目と耳に、軽やかな音色を届けます。
日本の俳句や歌に現れた「涼しさ」は、やはり日本の特産物で、そうして日本人だけの感じうる特殊な絶妙な感覚ではないかという気がする。
マーティーさんに俳句で涼しさを感じる心を教えてくれるのは、現代日本を代表する俳人、金子兜太(とうた)さん。
90歳を越えた今も第一線で活躍されています。
今回、俳句を習ったこともあるマーティーさんに、日本人独特の「涼」を詠み込んだ句を紹介してくださいました。
「涼しさや 鐘をはなるる かねの声」 与謝蕪村
「下下の下下 下下の下国の 涼しさよ」 小林一茶
俳句から「涼」を感じとる。
その豊かな想像力と感性が、日本の文化には息づいているのです。
「涼む」。
それは、日本人の豊かな感受性が生み出した夏を楽しむための知恵と工夫。
何気ないものから、涼しさを感じる心を育てることが、エコな生き方への第一歩なのかもしれません。
天野屋
住所:〒101-0021 |
|
竺仙
|
|
野口染物店
|
|
阿以波
|
|
火造りうちやま
|
マーティ・フリードマン
<プロフィール> |