ネイチャードキュメント 奇跡の地球紀行
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日中共同制作
パンダの故郷 美しき九寨溝
~速水もこみち 中国・世界遺産の旅~
<水面に育つ不思議な森の風景>
四川省・成都から北へ約400km、標高3000m級の山々の向こうに、まるで童話の世界のような美しい風景が広がっている。渓谷(溝)にチベット族の暮らす村(寨)が9つあることから、この名が付いたといわれる「九寨溝」。チベット族の伝説では、昔、山の女神が天界から落とした鏡が108つに砕け散って湖になったといわれている。 山奥へ進み、息をのむほどの美しい景観を作り出す湖を巡ると、「石の上に育つ木」という不思議な風景を目の当たりにする。実は、その風景の秘密を解くカギは、湖に含まれているカルシウムにある。長い歳月をかけてカルシウムと土が混ざり合い石灰岩となり、その岩肌に植物の種が引っ掛かることで木々が成長、水面に育つ森を形成していた。そんな世界でも類のない不思議な絶景を紹介する。
<神秘的なコバルトブルー、その透明感と色の秘密とは?>
九寨溝で最も美しい湖のひとつ「五花海」。水はガラスのように透明で、コバルトブルーの湖底には生い茂る藻やコケ類がつくりだす複雑な色彩をはっきりと映りだしている。水が透明な理由は、水に溶けているカルシウムが水中のチリと一緒に湖底に落ち、水を浄化しているため。透明な水の色の秘密を探ろうと、ボートに乗り水面を進む速水。そこで出会ったのは驚くほど透明で、光や深さによってさまざまな色を放つ神秘の世界。湖底で湧き出す泉も発見! その泉も水が透明である理由の一つ。
<1億8000万年前に九寨溝が誕生した地球の痕跡>
最も奥にある、九寨溝最大の湖「長海」へ。そこには九寨溝がかつて海底だったという証拠、サンゴの化石があった。湖の成り立ちを探るため、長海の奥をさらに進むと、1億8000年前に地層が隆起した岩肌を発見!
<チベット族の聖地、知られざる秘境へ>
九寨溝で出会ったチベット族に教えられ、彼らの聖地「神仙池」へ向かう。九寨溝から約2時間、4000メートル級の山を越えた山中にひっそりと存在している、ガイドブックにも載っていない知られざる秘境。ゆっくりとした時間が流れる絶景とチベット族の信仰に触れ、速水が思うこととは?
<絶滅危惧種ジャイアントパンダの生態>
2006年、四川省内にある7つの自然保護区と9つの風景名勝区が、「四川ジャイアントパンダ保護区群」として世界自然遺産に認定された。これらの地域には、野生のジャイアントパンダをはじめとする貴重な動植物が多数生息しており、豊かな自然に恵まれている。臥龍(がりゅう)パンダ自然保護区はその一つ。豊かな自然環境は野生パンダが生息する条件がそろい、約150頭の野生パンダが生息している。 速水が訪れたのは、その臥龍で1980年に創設した「中国パンダ保護研究センター 臥龍核桃坪野生化訓練基地」。世界最大のパンダ研究・繁殖センターとして知られ、世界初のパンダ野生化プロジェクトを行っている。ここで24名のスタッフがパンダを野生化するために、前例のないさまざまな研究をしている。1970年代には2459頭いた野生パンダだが、森林伐採による生息地減少などの影響で絶滅の危機にあり、現在は1864頭になっている。 パンダのエサは主に竹。大きな体に栄養を与えるため、1日10数キロほどの竹を食べる。それでも栄養不足になるため、栄養価の高いトウモロコシやジャガイモなど20数種類の食材を使った「パンダクッキー」を作り、与えている。速水はエサやりを体験しながら、竹を食べるために進化した指の秘密や鳴き声など、パンダの生態を探っていく。
<奮闘!赤ちゃんパンダを救いたい!>
生後10日という双子のパンダは、ピンク色の地肌に白黒のうぶ毛が生えている状態。しかし、パンダの母親は1頭しかうまく育てることができないため、飼育員がもう1頭の赤ちゃんパンダの世話をしなければならない。飼育員はお腹をマッサージして便をさせ、親パンダから母乳を搾乳し赤ちゃんパンダに飲ませる。母乳を飲ませる時は背中を軽く叩き、ゲップをさせる。人間の赤ちゃんと同じで、お腹の空気を出さないと体調が悪くなるという。
<親子パンダを見守り、子パンダを野生に帰したい!>
現在、施設では生後4カ月になる子パンダ4頭の野生化訓練を行っている。パンダ飼育歴5年目、「パンダと人間の共存」を目標にする飼育員・何さんの姿を追いながら、その訓練の様子を紹介する。 パンダは繊細な生き物で、人間に慣れると野生化はできない。そのため、"母パンダの本能で子パンダを育てる"のが基本となっている。訓練の一つとして他の動物の存在に慣れさせるため、レッサーパンダなどの動物を敷地内で飼育し、臭いや鳴き声を聞かせている。さらに、人間の姿を子パンダに見せないよう、パンダのフンの匂いを付けた着ぐるみを着て子パンダに接する努力もしている。知られざるパンダ野生化訓練の実態に迫る。
<風土に育まれた食文化&伝統文化>
2300年以上の歴史を持つ成都は、アジア初となるユネスコのグルメ都市に認定された「美食の街」としても知られている。料理好きの速水は、四川の名物で、小腹が空いた時に食べる軽食「小吃」や麻婆豆腐発祥の店で本場の辛さを体験。食事をしながら額に汗を流す。年間のうち約200日が曇りという成都だが、蒸し暑い地域。辛い料理が発展したのは、汗をかいて暑さをしのぐためという。